不正を見抜くデータ監査 第5回 操作しやすい在庫

 公認会計士 坂井 俊介

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在庫は債権性がなく、会社保有されている内部資産なので、預金や売掛金などと比べ、内部帳票によるBS計上額の操作が起こりやすい。

メーカーや小売業では実地棚卸時の棚卸帳票の改ざん、商社では営業倉庫や外注委託先と結託した在庫証明書の偽装、といった事例が上場会社でも多く見られる。大規模な不正事件の相当部分が在庫(=棚卸資産)に絡んでいる。

在庫操作の手法は概ね次のようなものである。

(在庫操作の手法)

・クレーム返品やB品など物理的に毀損しているものを評価減しない

・逸失して存在しないものを帳簿から落としていない

・滞留品など販売価値が低くなったものを評価減しない

・現場資材や工事残材など資産計上すべきものを資産計上しない

・棚卸資産と売上原価への原価差額の配賦を操作する

・他の品番との間で原価を付替えることにより在庫金額を操作する

・架空売上や循環取引などの辻褄合わせで簿外在庫や架空在庫の調整をする

・営業倉庫や外注委託先に頼んで在庫証明書を偽装する

・実地棚卸数量を改ざんして、棚卸金額を操作する

最後の実地棚卸数量の改ざんであるが、主として製造業では次のような段階で発生する。

(実地棚卸数量の改ざん)

・棚卸カウント…...