<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第128回 リース(7)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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「点と線」

日本の推理小説の最高傑作の1つとされる松本清張の「点と線」は、雑誌での連載を経て、1958年2月に単行本として発刊され、日本での推理小説ブームを巻き起こした。

この作品が高く評価されているのは、犯人のアリバイ工作の緻密さと、その緻密なアリバイを崩す刑事の頭脳戦の面白さにある。そして犯人のアリバイ工作の主な舞台に設定されていたのが、東京駅という多くの人が身近に接している場所だったため、そのことが読者の共感を呼んだのだと言われている。

当時の東京駅は、新幹線がまだ開通しておらず、在来線のホームの数が現在よりも多い、複数の長距離列車と近距離列車の路線が発着する大規模なターミナル駅であった。作品に用いられたトリックは、東京駅のホームの構造と、当時すでに過密だった列車のダイヤとの組み合わせを用いた巧妙なものだった。東京駅のプラットフォームは、並行して並んでいるため、離れたホームからいくつかのホームを見ることが可能だった。犯人は、この視界の特性を逆手に取り、目撃者に特定の時間に「その人物が確かにいた」と思わせるように仕掛けた。

この推理小説の中で重要な役割を果たしているのが時刻表である。刑事は...