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[全文公開] アングル IRSの執行力強化策

 税理士 川田 剛

( 100頁)

はじめに

IRSは、ここ数年厳しい予算及び定員削減を強いられてきた。

しかし、先般(3月)提出されたバイデン大統領の2023年度予算案及びそれに次いで議会あてに出された議会予算局(OMB)の予算案と財務省の予算案(いわゆるグリーン・ブック)によれば、2023年度以降においては、国際的租税回避及び仮想通貨を利用したマネーロンダリング対策等を中心に予算・定員ともに大幅な増加が見込まれている。

バイデン政権2023年度予算案の概要

バイデン大統領の一般教書演説及びそれをふまえて2022年3月28日に議会予算局(OMB)から公表された2023年度(2022年10月~2023年9月)予算案によれば、歳出として、5.79兆ドル(対前年比1%減)が見込まれている。歳入面では(対前年比4.5%増)の4.638兆ドルが見込まれている。

増税の中心は、個人所得税と法人税である。

ちなみに、大統領の予算案の具体的な策定作業を担当している財務省及び議会予算局(OMB)によれば、改正案は大略次のような内容のものとなっている。

個人所得税...全人口のわずか0.01%の人が全体の4割近くの所得を得ている状況をふまえ、現在上限37%となっている最高税率を39.6%まで引き上げる。

あわせて、高額所得者(100万ドル超)の得るキャピタルゲインに対する軽減措置を通常の所得と同じ税率で課税することにするなど大幅に見直す。

※その結果、ニューヨーク州住民の場合、地方税込みの限界税率は42.9%から57.3%(BBBA(注)考慮後)となる。

さらに、調整後所得1000万ドル超の所得に対し5%の付加税、2500万ドル超の部分には3%の追加付加税を課すこととしている。

法 人 税...現在21%となっている税率を28%まで引き上げる。

また、フォーチュン誌の上位500社のうち、55社が400億ドルの利益を得ながら法人税を全く支払っていないという状況に鑑み、20%のミニマム・タックスを課すこととする。

あわせて、BEPSプロジェクトでの議論等をふまえ、国際的租税回避防止措置を強化する。

ちなみに、そこでは、トランプ政権時代に設けられたGILTI(無形資産に係る低課税所得への対応)、及びBEAT(税源浸食、濫用防止への対応)の廃止などが見込まれている。

遺 産 税...現在、金持ちに有利となっているとして批判のある遺産税課税について、遺産税を支払った場合に遺産税評価額まで引き上げる(Step-up)ことが認められている現行制度を抜本的に見直す。

その結果、日本の制度と同じように、遺産税課税後であったとしても被相続人の取得価額が引きつがれることとなる。

みなしキャピタル・ゲイン税

今回の提案で目新らしいのは、純資産額1億ドル(約130億円)を超える超富裕層に対し、保有資産の20%相当額の実現があったものとみなして段階的にキャピタル・ゲイン税を課税するというアイデアである。

そのためのステップとして、取りあえず純資産1億ドル超の納税者に対し、2022年12月31日時点でIRSに資産状況の報告を求めることとしている。

※ただし、この案に対しては民主党内の有力議員からも異論が出ていることから、実現はむずかしいとの見方もされている。

執行面での強化案

これらの改正に加え、同予算案では執行面での強化案として、対前年比で12%の予算増、それに見合った人員増が見込まれている。具体的には、

オフショア課税と対抗するための調査・徴収プログラムの強化。特に、海外金融資産だけでなく、5万ドル以上の仮想通貨を米国外で有している者に対してもIRSへの報告の義務化
免税団体に係るコンプライアンスの強化
IT化の推進及びサイバーセキュリティの強化

などである。

ただし、同法案は、下院は通過したものの、強い異論もあることから、それが下院通過案のままで上院で成立するか否かは現時点では不明である。