2019/07/03 13:00
消費税にインボイスが導入されると、インボイスを発行できない免税事業者が取引上不利になると言われています。その中には、仕入税額控除ができない分だけ免税事業者に値引きが要求されるという懸念もあるようです。こうした値引き要求はすぐさま消費税の転嫁対策特別措置法違反になると思われがちですが、何が何でもダメとはなっていないようです。今回はその辺りの話を紹介しましょう。
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インボイスとは 事業者の登録番号・取引内容・取引金額など一定の事項を記載した領収書等のことです。 課税事業者のうち登録を受けた事業者のみ発行ができ、免税事業者は発行できません。 |
10月に予定されている消費税率引き上げでは、これと同時に2023年からのインボイス導入が正式に決まり、免税事業者が取引から排除されるのではないかとの懸念が広くささやかれています。免税事業者であっても消費税率引き上げ分の価格転嫁が政府から要求される一方、仕入税額控除のできない取引相手はその分不利になるのを嫌がるから、というのがその理由です。
そこで、会社の経理としては、計算の上での話として「免税事業者に対しては、仕入税額控除のできない分の値引きを要求すれば損はないだろう」と考えるのは無理もないところかもしれません。ある会社でもこんな会話がありました。
後輩ちゃん |
課税事業者も免税事業者も同じボールペンは一本110円。課税事業者からの仕入れであれば会社は10円の仕入税額控除ができるから実質負担は100円。 だけど、免税事業者からの仕入れだと仕入税額控除がないから110円が丸々会社から出てゆく。これじゃあ、免税事業者は相手にされなくなりますよね... |
先輩さん |
ええ、ボールペンの一本や二本ならともかく、取引数量や金額が多いと会社としてもきちんとした対応をしないといけなくなるわね。2029年の9月まではある程度の控除が認められているけれど、いずれは何らかの形で取引を見直しということになるんでしょうね |
例えば、システム開発などでもコストだけで見たら免税の個人事業者より課税事業者が選ばれやすいってことになりますよね |
金額の面だけで考えるとそうなるわね |
でも、システム部門としては、免税事業者の方が要件変更などにも柔軟に対応してくれるとかで、あちらではだいぶ重宝しているようですよ。良い仕事をしてくれるから免税事業者と契約したいとなれば、さすがにウチの部長もダメとは言いませんよね? |
どうかしら、部長ってああ見えて結構シビアなとこあるから、「どうしてもっていうなら消費税分を値引きしてもらってね」とか言い出すかもしれないわね |
消費税分の値引きですか...。でも、それをやると公正取引委員会にお目玉もらっちゃうって聞きましたよ? |
ええ、いわゆる"買いたたき"ね。公正取引委員会は実際の社名を挙げてまで問題ケースを出しているものね |
でも、公正取引委員会のQAを見ると、「合理的な理由」があれば買いたたきにはならないって言ってますよね? |
ふふ、あなたも一丁前に裏読みをするようになったのね |
Q19 消費税転嫁対策特別措置法に関して,免税事業者である納入業者との取引において留意することはありますか。 A 免税事業者であっても特定供給事業者に該当するため,特定事業者は免税事業者である納入業者に対しても消費税転嫁対策特別措置法で禁止する消費税の転嫁拒否等の行為を行ってはなりません。 特定事業者は,本体価格に消費税を上乗せして対価を定める必要がありますが,免税事業者であることを理由として,消費税を上乗せせず対価を定めたり,仕入れ等の諸経費に係る消費税負担分のみを上乗せして対価を定めたりすることは,合理的な理由がない限り,「買いたたき」(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段)に該当し,違反となります。 (公正取引委員会・消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問より) |
たしかにこの下線部分を裏読みすると「合理的な理由があれば」値下げ交渉はしても構わないとも読めるわね。同じQAでは、あくまでも自由な交渉でいろいろな努力をすれば値下げも可能ですとも言っているわよ |
Q10 「合理的な理由」なく買いたたきを行うことが禁じられていますが,例えば,仕入量を増やせばスケールメリットがあるはずなので,それだけで「合理的な理由」があると認められるという理解でよいでしょうか。 A 例えば,仕入量を増やす場合が合理的な理由がある場合として認められるためには, [1]特定供給事業者(売手)にも客観的にコスト削減効果が生じていること [2]コスト削減効果を対価に反映させるものであること(コスト削減効果を超えて値下げしていないこと) [3]当事者間の自由な価格交渉の結果であること(十分な協議の上で,売手である特定供給事業者が納得して合意していること) が必要です。このため,消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合には,単に仕入量を増やすことだけでは「合理的な理由」には該当しませんので,「買いたたき」(消費税転嫁対策特別措置法第3条第1号後段)に該当し,違反となります。 (公正取引委員会・消費税の転嫁拒否等の行為に関するよくある質問より) |
なるほどー!前提条件はあるけど、何が何でも値引きがダメとはいってないんですね |
ええ。ただ、ここではスケールメリットなどが前提だから、あなたのいうような請負などでの値引きは難しいかもしれないわね |
スケールメリットかぁ~。それじゃさっきのボールペンの場合だと、例えば「1,000本単位で仕入れていたものを5,000本単位にするから1回の取引分を値下げして欲しい」みたいなことは十分な協議があればOKということなんですね? |
そうなるわね。ただし、売手側もスケールメリットを活かしたコスト削減ができている場合に限るのと、コスト削減効果以上の値引き交渉があった場合などは「買いたたき」認定されてしまうから注意が必要よ |
値下げ交渉にはお互い丁寧かつ十分な協議が必要ということですね! |
ええ、公正取引委員会では買いたたきにますます厳しい目を向けてくるでしょうから法務部門ともしっかり話をしておかないとね |
そうですね!私も部長や他部門の皆さんにちゃんと説明できるよう、税務通信を読んだり、税務通信データベースで検索したりして日々勉強しておかなきゃ! |
ちゃっかり商品のPRをするのはおやめなさいね |
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