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[全文公開] 1年でマスターする交際費・寄附金の実務入門 第1回 交際費課税の概要

 税理士 林 広隆

【略歴】
 一般企業勤務後、平成6年より公認会計士辻会計事務所(現:辻・本郷税理士法人)に勤務、同年税理士試験合格、平成10年税理士登録、平成22年度租税訴訟補佐人制度大学院研修修了。
 平成15年より林会計事務所を開設、平成28年度より亜細亜大学非常勤講師を兼務している。
(2019年4月現在)

はじめに

法人に対して課される各事業年度の所得に対する法人税は、各事業年度の所得の金額に対して一定の税率(株式会社などの普通法人は基本税率23.2%、中小法人の年800万円までの所得について15%)を乗じて求めます。

所得の金額は、損益計算書の当期純利益を出発点として、税務調整を加味して計算します。この税務調整には、利益に対して所得金額が増える加算調整と、利益に対して所得金額が減る減算調整があります。

当期の所得金額 = 当期純利益 + 加算調整 ― 減算調整

減算調整される項目は、受取配当等の益金不算入額などに限られ、多くありません。

一方、加算調整される項目は、減価償却超過額や各種引当金の否認額、売上の計上時期のずれなどの留保項目と、役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額などの社外流出項目に区分されます。

加算調整においては、留保・社外流出いずれであっても当期の税負担が増加しますが、留保項目については翌期以降のいずれかの事業年度に減算調整により取り戻すことができますから、複数年度で見た場合の税負担は同じになります。これに対し、社外流出項目は将来にわたって取り戻すことができず、純粋に税負担が増加します。したがって、法人の経理担当者としては、予期せぬ社外流出項目が生じないよう、よく理解しておくことが重要です。

この連載では、社外流出項目のうち、最も発生する可能性が高く、税務調査でも問題となりやすい「交際費等の損金不算入額」と「寄附金の損金不算入額」について、1年決算の単体納税法人を前提として、実務上の注意点を交えてご紹介します。

まず第1回は、交際費等の損金不算入額(交際費課税)の概要です。

Ⅰ 沿革

交際費課税の制度は、昭和29年度税制改正で3年間の期限を区切って創設されて以来、期限到来の都度、延長されてきました。

1.制度創設およびその後の延長の経緯

(1) 昭和29年度税制改正(制度創設)

この制度は、企業の資本蓄積を促進する措置の一環として冗費の抑制を図ることを目的として導入されました。その背景について、当時の資料の一節をご紹介しましょう。

 ~、企業の資本蓄積を促進するためには積極的な強制再評価の実施、減価償却の励行、高率配当の自粛、増資配当についての法人税の免除等の措置を講ずるとともに、支出面においてもできる限り冗費を節約することが必要であると考えられた。この冗費的支出として常に問題視されるのはいうまでもなく法人の支出する交際費であつて、もちろん交際費の中には純粋な営業経費に属するものも相当多いことは否めないが多面社用族というような新造語も生れる位で、さきに経済団体方面で提唱されたいわゆる新生活運動によつてある程度自粛されつつはあつても、まだまだ浪費的支出も少なくなく、節約可能のものもかなりあるものと考えられ、これらの点にかえりみ、法人の支出する交際費等の額が一定限度額をこえるときは、そのこえる金額の2分の1に相当する金額を損金に算入しない措置が講ぜられるに至つたのである。
(出典:「所得税・法人税制度史草稿」昭和30年3月大蔵省主税局調査課 p493)

ただし、資本主と経営者が一体であるような中小法人については、経費の濫費が行われることも少なく、その金額も少ないと考えられ、交際費課税の適用対象法人は資本金500万円以上の法人に限定されました。

なお、上記「一定限度額」は当初、原則として前年実績の70%とされ、期限到来前の昭和31年度税制改正においては、上記解説の1/2が撤廃、つまり限度超過額の全額が損金不算入とされています。

(2) 期限延長

昭和32年度税制改正においては、昭和31年12月の臨時税制調査会答申において次のように結論付けられているように、控除限度額を前年実績の70%から60%に引き下げるなど課税強化のうえ、期限延長が行われました。なお、法人の資本金額が増加していた当時の実態に合わせ、適用対象となる資本金が1千万円以上に引き上げられています。

 もとより、これら交際費の相当部分は、営業上の必要に基づくものであり、ただちにその全部を濫費と称することはできない。しかし、(中略)一方では役員及び従業員に対する給与が、旅費、交際費等の形で支給される傾向が生ずるとともに、他方及び役員従業員(筆者注:原文ママ)の私的関係者に会社の経費で接待をするとか、事業関係者に対しても、事業上の必要をこえた接待をする傾向が生じている。このため企業の資本蓄積が阻害されていることは、争えない事実である。(中略)その積極的防止策としては、仮装の給与等の支給に対してはこれを給与所得としては握し、所得税課税の適正化を図るとともに、交際費の濫費については、この制度によつてこれを抑制することが必要である。
 したがつて、交際費損金否認の制度は、今後しばらくこれを続けるとともに、よりその効果をあげるため、現行制度をむしろ強化する必要がある。
(出典:「臨時税制調査会答申」昭和31年12月25日 p135-136)

昭和36年度改正においては、昭和35年12月の税制調査会答申に次のように述べられているように、全法人を対象とし、控除限度額につき、前年実績を用いる方法から基礎控除(300万円+自己資本×1/1000)制度に切り替えたうえで期限延長が行われました。

 わが国の資本金1,000万円以上の法人の1年間の交際費支出総額は、(中略)漸増傾向にある。
 (中略)現在の1,000万円という資本金基準は、交際費課税を免れるため増資をしない効果を生んでいるという批判や交際費支出のためばかりの小資本会社を生んでいるという非難がある。
 (中略)現在の交際費の支出の状況や、冗費を節約して企業の基盤を強くする必要性等からみて、これを廃止することは、適当ではなく、期限を延長してむしろ若干の強化を行うほうが現在の情勢に即するものと考えた。
(出典:「当面実施すべき税制改正に関する答申(税制調査会第一次答申)及びその審議の内容と経過の説明」昭和35年12月税制調査会 p346-350)

その後、平成10年度税制改正までは、交際費支出に対する社会的批判と、その支出額の増加傾向の抑制などを理由として、ほぼ一貫して課税強化の改正が行われました。

これに対し、平成15年度以降は、中小企業対策や景気対策の一環として、緩和方向への改正が行われつつ、制度自体は現在まで存続しています。

Ⅱ 交際費課税の概要

1.交際費等の損金不算入額

法人が各事業年度において支出する交際費等の額については、次の算式で計算した金額が損金不算入とされます( 措法61の4 ①②)。

(1) 期末資本金1億円以下の法人(大法人(注)による完全支配関係がある普通法人を除く)等

当期の交際費等の額- 接待飲食費の額×50% 多い方の金額を控除
定額控除限度額 年800万円
(2) (1)以外の法人

当期の交際費等の額-接待飲食費の額×50%
(注) 大法人
大法人とは、資本金5億円以上の法人、相互会社、法人課税信託の受託法人をいいます。たとえば、資本金1億円以下であっても、資本金5億円以上の法人の100%子会社は定額控除限度額を使えません。

2.交際費等の範囲

(1) 交際費等の意義

税務上、交際費等とは、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの」とされています( 措法61の4 ④)。

① 支出の相手方=得意先、仕入先その他事業に関係のある者等
② 支出(行為)の形態=接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為

上記①「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接その法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく、間接に利害関係のある者や、その法人の役員、従業員、株主等も含まれます( 措通61の4(1)-22 )。すなわち、役員や従業員を対象とするいわゆる社内交際費や、直接取引関係のない株主を対象とする接待なども含まれます。

次に、交際費等に該当するかどうかは、会計上の勘定科目に関係なく、実質で判断します。

その解釈をめぐっては、税務当局と納税者の間で争いになりやすく、多くの裁判も行われていますが、まずは、交際費等とは上記①②の要件を満たす費用であると押さえてください。

●実務上の留意点

 たとえば、取引先を飲食店で接待した場合、その飲食店に支払う費用はもちろんのこと、その接待後に当社の従業員がタクシーで帰宅した場合のそのタクシー代も交際費等に該当するものと考えられ、税務調査でもよく指摘される項目です。接待した担当者からこのタクシーの領収書が提出された場合、会計上は旅費交通費として処理していることも多いと思われますが、税務上は、交際費等として旅費交通費勘定から抽出して集計することになります。
 なお、取引先から接待を受けるために当社の従業員等が懇親会場へ向かう、あるいは懇親会場から帰宅する際のタクシー代は、当社は接待等を受ける側であり、当社が接待等を行うための費用ではないことから、交際費等に該当しません(国税庁HP質疑応答事例「交際費等の範囲(接待を受けるためのタクシー代)」)。
(参考) 接待後の従業員の帰宅のタクシー代
少し古い裁判例ですが、得意先の接待後の従業員の帰宅のためのタクシー代などにつき交際費等に該当するか否かが争われた裁判で、原告会社側は、日中の業務および残業後の帰宅にはハイヤーを利用することを認めており、帰宅前の飲食の有無によってその性格が変わるものではないから交際費等に該当しない、と主張しましたが、得意先の接待に要した費用であるとして棄却された事例があります(S55.4.21東京地裁:TAINS Z113-4582)。

(2) 交際費等から除かれるもの

法令では、次の費用は交際費等から除かれています( 措法61の4 ④、 措令37の5 )。

専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手拭いその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用
新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会その他記事の収集のために、または放送のための取材に通常要する費用
飲食費であって、支出金額を参加者の数で除して計算した金額が5,000円以下の費用

⑤の飲食費とは、次の費用をいいます。

飲食その他これに類する行為のために要する費用(専らその法人の役員、従業員またはこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く)

すなわち、社外の者を飲食店で接待し、その支払額が1人当たり5,000円以下のものについては、交際費等に該当しません。ただし、この規定の適用を受ける場合には、一定の事項を記載した書類を保存する必要があります( 措規21の18の4 )。

このほか、主として次のような性質を有する費用は交際費等に含まれないものとされています( 措通61の4(1)-1 )。

・ 寄附金
・ 値引きおよび割戻し
・ 広告宣伝費
・ 福利厚生費
・ 給与等

これらの費用との区別については、次回以降詳しく見ていきましょう。

3.損金算入限度額

(1) 接待飲食費の額×50%

接待飲食費とは、交際費等のうち上記(2)⑤の飲食費であって、飲食費であることにつき一定の事項を帳簿書類に記載しているものをいいます( 措法61の4 ④、 措規21の18の4 )。

ここで、飲食費のうち1人当たり5,000円以下のものは(2)⑤により交際費等に含まれませんから、接待飲食費の額として交際費等の額から控除するのは、社外の者との飲食等に係る費用で1人当たり5,000円を超えるものの額の50%ということになります。

(2) 定額控除限度額

期末資本金の額が1億円以下の法人(大法人による完全支配関係がある普通法人を除きます。)等については、年800万円の定額控除限度額を適用することができますから、交際費等がすべて接待飲食費であると仮定した場合、接待飲食費が年間1,600万円以下であれば定額控除限度額の方が損金算入額が多く有利になります。

なお、年800万円とは、その事業年度が12か月である場合で、その事業年度が6か月であれば800万円×6月/12月=400万円となります。

【具体例】損金不算入額の計算例

当期に事業関係者等を接待した金額20,000,000円
うち社外の者との飲食費15,000,000円
(1人当たり5,000円以下のもの6,000,000円、5,000円超のもの9,000,000円)
なお、そのほかに交際費等の額はないものとします。

<ケース1>期末資本金1億円以下で、大法人による完全支配関係がない法人

当期の交際費等の額 20,000,000円-6,000,000円=14,000,000円
控除限度額 9,000,000円×50%=4,500,000円 < 8,000,000円 ∴ 8,000,000円
損金不算入額=14,000,000円-8,000,000円=6,000,000円

<ケース2> <ケース1>以外の法人

当期の交際費等の額 20,000,000円-6,000,000円=14,000,000円
控除限度額 9,000,000円×50%=4,500,000円
損金不算入額=14,000,000円-4,500,000円=9,500,000円

次回は、飲食費および接待飲食費の取扱いについて見ていきましょう。

文中の略号の意味は次のとおりです。
措法…租税特別措置法
措令…租税特別措置法施行令
措規…租税特別措置法施行規則
措通…租税特別措置法関係通達
TAINS…税理士情報ネットワークシステム