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[全文公開] 基本からマスターする!役員給与の実務ポイント 第1回 法人税における役員給与の取扱いの概要

 税理士 林 広隆


【略歴】
 一般企業勤務後、平成6年より公認会計士辻会計事務所(現:辻・本郷税理士法人)に勤務、同年税理士試験合格、平成10年税理士登録、平成22年度租税訴訟補佐人制度大学院研修修了。
 平成15年より林会計事務所を開設、同年より資格の学校TAC税理士講座法人税法講師、平成28年度より亜細亜大学非常勤講師を兼務している。
(2021年9月 現在)

Ⅰ はじめに

法人に対して課される各事業年度の所得に対する法人税額は、各事業年度の所得の金額に対して一定の法人税率を乗じて計算します。

各事業年度の所得の金額は、その事業年度の益金の額からその事業年度の損金の額を控除した金額とされ、会計上の当期利益を出発点として、税務調整を加味して計算します。

税務調整には、利益に対して所得金額が減る減算調整と、利益に対して所得金額が増える加算調整があります。

減算調整される項目には、受取配当等の益金不算入額などが該当し、税負担を軽減できますが、種類はあまり多くありません。

一方、加算調整される項目は、減価償却超過額や各種引当金の否認額などの留保項目と、役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額などの社外流出項目に区分されます(減算調整にも同様の区分がありますが、ここでは割愛します。)。

加算調整においては、留保・社外流出いずれであっても当期の税負担が増加しますが、留保項目については翌期以降のいずれかの事業年度に減算調整により取り戻すことができますから、長い目で見れば基本的に税負担は平均化されます。これに対し、社外流出項目は将来にわたって取り戻すことができず、純粋に税負担が増加します。したがって、法人の経理担当者としては、予期せぬ加算・社外流出項目が生じないよう、よく理解しておくことが重要です。

この連載では、加算・社外流出項目のうち、役員給与について、実務上のポイントをご紹介します。なお、加算・社外流出項目のうち、交際費および寄附金の取扱いについては、「1年でマスターする交際費・寄附金の実務入門」と題して、2019年4月から2020年3月にかけて税務通信データベースでご紹介していますので、あわせてご参照ください。

まず第1回は、法人税における役員給与の取扱いの概要です。

Ⅱ 法人税における役員給与の取扱いの概要

役員に対する給与には、株主総会の決議等(指名委員会等設置会社の場合は報酬委員会の決定)を受けて支給する(月額)報酬、賞与、退職慰労金があり、会計上、発生した期間の費用として取り扱います。

一方、税務上は、一定の要件を満たさなければ損金の額に算入されません。法人税における役員給与の取扱いの全体像は次のとおりです。

【図 解】法人税における役員給与の取扱いの全体像

役員給与の損金不算入額は将来取り戻すことのできない社外流出項目ですから、役員給与の支給を検討する場合、損金不算入とされないように注意する必要があります。

1.隠蔽・仮装による給与( 法法34 ③)

法人が、事実を隠蔽し、または仮装して経理することによりその役員に対して支給する給与は損金不算入とされます。

たとえば、売上金額を帳簿に記載せず(隠蔽)、それを簿外で役員に毎月10万円ずつ1年間支給していたことが税務調査で発覚した場合に、役員給与と売上がそれぞれ同額計上されて増差税額が生じずお咎めなしとなってしまうことを防ぐため、このような役員給与の支給額については損金算入の余地はないこととされています。

ただし、あくまでも隠蔽・仮装による支給が対象であり、公正妥当な会計処理を行っている限り適用されませんから、ここから先、この規定については基本的に考慮せずに解説します。

2.定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与( 法法34 ①)

役員給与については、(1)定期同額給与、(2)事前確定届出給与、(3)業績連動給与のいずれにも該当しないものは、損金の額に算入されません。すなわち、役員給与を損金算入するためには、まずはその支給形態が(1)~(3)のいずれかに該当する必要があります。ただし、業績連動給与に該当しない退職給与および使用人兼務役員の使用人分給与については、この規定の対象から除かれています。

それぞれの詳細は今後ご説明しますが、概略は次のとおりです。

(1) 定期同額給与

定期同額給与とは、定期給与でその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与をいいます。定期給与とは、その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与をいい、毎月支給する報酬が該当します。

すなわち、毎月支給する報酬で事業年度を通じて同額であるものが定期同額給与の基本形となります。

【具体例】定期同額給与の基本形(事業年度を通じて毎月同額を支給)

ただし、期中に支給額が増減する場合であっても、定時株主総会等の決議により期首から3月以内に役員報酬が改定される場合や、役員の職務の内容の重大な変更があった場合、あるいは経営状況が著しく悪化してやむを得ず減額する場合など、一定の事由に該当する場合には、「その他これに準ずるもの」として定期同額給与に該当します。

(2) 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭または確定した数の株式・新株予約権などを交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、上記(1)定期同額給与および下記(3)業績連動給与のいずれにも該当しないものをいい、損金算入のためには、原則として支給時期や支給額をあらかじめ所轄税務署長に届け出るなど、一定の要件を満たす必要があります。

【具体例】定期同額給与のほかに賞与を支給する場合

(3) 業績連動給与

業績連動給与とは、交付される金銭の額または株式・新株予約権の数が、会社の業績を示す一定の指標を基礎として算定される給与をいいます。

業績連動給与の損金算入のためには、報酬委員会の決定などの一定の手続きを経て業務執行役員を対象者として支給されるもの(株式の場合には市場価格のあるもの、新株予約権の場合にはその行使により市場価格のある株式が交付されるものに限ります。)でその内容が有価証券報告書等で開示されることなどの要件があり、適用できるのは基本的に上場会社(およびその100%子会社)に限られます。

3.不相当に高額な部分の金額の損金不算入( 法法34 ②)

上記2.(1)~(3)のいずれかに該当する役員給与は、そのまま損金算入されるわけではなく、不相当に高額な部分の金額については、過大役員給与として損金不算入となります。

たとえば、定期同額給与に該当する役員給与の支給額9,000万円に対し、役員給与としての相当額が6,000万円とすると、相当額を超える3,000万円が不相当に高額な部分の金額として損金不算入とされます。

また、上記2.(1)~(3)の対象から除かれている業績連動給与に該当しない退職給与および使用人兼務役員の使用人分給与についても同様に、不相当に高額な部分の金額は損金不算入となります。

たとえば、役員退職給与の支給額1億円に対し、その役員に対する退職給与の相当額が8,000万円とすると、相当額を超える2,000万円が不相当に高額な部分の金額として損金不算入とされます。

今回は、法人税における役員給与の取扱いの概要について解説しました。

次回は、役員給与の取扱いの対象となる役員の範囲について見ていきましょう。

文中の略号の意味は次のとおりです。
法法…法人税法