書評 日本公認会計士協会編 「不正調査ガイドライン」

 公認会計士 安福 健也

( 44頁)

会計不正と対峙する社会にとっては,光を放つ燈台となり,また,個人の手にとれば,あるべき方向を示す羅針盤となる待望の書,「不正調査ガイドライン」が発刊された。

本書は,「書物」の体を為すものの,不正行為者へのインタビューの記述などは,当事者の情景が目に浮かび,また,発言が耳に伝わる描写であり,さながら不正調査を題材とした「ドラマ」といえる側面がある。

その「ドラマ」の「第1部」は,不正及び不正調査に関連する各分野の最前線で活躍される5名の専門家①の「座談会」で幕が開く。座談会では,(テーマ①)「公表データからわかる不正の現状」において,不適切会計企業の市場別社数,違反行為者(発行者である会社)の市場別,業種別分類ほか各種公表データをもとに現状分析が展開されているが,適時開示制度や課徴金制度に関連して,金額的規模の関係から公表データには表れてこない不正の可能性についても言及されている。また,議論は,担当者不正にとどまらず,経営者の誠実性を評価し,経営者不正を防止・発見する方策の検討にも及んでおり,不正に広範に対応し,また根底から取り組まれていることがわかる。(テーマ②)「不正調査の現状」では,...