世界会計よもやま話 M&AにはIFRS採用が避けられないか

愛知工業大学 教授 岡崎 一浩

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本年2月に,日本郵政グループは,オーストラリアの上場物流会社トール・ホールディングスを64億9,000万豪ドル(約6,000億円)で買収することに合意した。トール社は,世界的な輸送・物流業者である。この買収価格は,同社株価終値の1.5倍である。

まずお断りしたいのは,本稿はこの買収価格の過多を論じるものではない。無形資産にかかる日本基準とIFRSに関する,一考察である。

右記の貸借対照表に見られるように,IFRSを採用するトール社において無形資産は①16億8,700万豪ドルで,総資産に対して②28.6%となる。無形のものとしては,これに繰延税金資産が③1億3,300万豪ドル(④2.2%)ある。つまり,無形資産や繰延税金資産だけで,約30%である。

今回,このようなトールの株主資本(⑤27億1,300万豪ドル)に対し,買収価格は上述の通り64億9,000万豪ドルであるから,追加的に発生する無形資産は,その差である⑥37億7,700万豪ドルである。すると,日本郵政にとって買収後の無形資産等は合計⑦55億9,600万豪ドルとなる。

既存の無形資産無形資産① 1,687繰延税金資産③ 133合計1,8...