いまさらきけない会計基準と実務のポイント 第2回 内部統制のテスト,「25件」の不思議

新日本有限責任監査法人 公認会計士 久堀 修平

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1.はじめに

第2回は,上場会社にとっては会計・開示制度とあわせて重要となる内部統制報告制度に関するテーマを取り上げます。

会社の内部統制の運用状況の有効性を評価する場合,例えば売上取引のような,日常反復継続する取引について,ある期間における全取引の中から25件の取引を無作為に抽出し,これらに対して上席者による仕訳承認など所定の内部統制手続が実施されているかどうかを「検査(テスト)」することがあります。そして,25件の取引すべてについて所定の内部統制手続が実施されていることが確認できた場合に,内部統制の有効性は「90%の信頼度を得られる」とされています。 全取引(母集団)のうち,ほんの一部の取引(サンプル)を検査(テスト)するだけで,全取引(母集団)についての結論を推定するという,この魔法のような手法は,統計学的理論に基づいています。なぜ,たったの25件で全取引(母集団)が推定できるのでしょうか。その理論のエッセンスをわかりやすくデフォルメした上で,「仮説検定」という統計学の手法を例にして,簡単な数値例を使って紹介しましょう。

2.仮説検定とは? 二項分布とは?

「仮説検定」とは,ある「仮説」...