東芝事件から何を学ぶか 第4回「監査」

青山学院大学大学院 教授 町田 祥弘
関西大学大学院 教授 松本 祥尚

( 08頁)

1.何が問題だったのか

(1) 監査のことは外部からは分からないという前提

東芝の訂正有価証券報告書が提出されれば,残る問題は監査だという声もある 。粉飾決算を行ったのが誰かという点を忘れたかのように,それを見抜けなかった監査人の非だけを指摘するのは,2010年のオリンパス事件のときと同じである

本稿を執筆するに当たって,まず,大前提を述べておく必要がある。それは,監査上の判断に関する問題は外部からはわからない,ということである。

東芝の第三者委員会は,「会計監査人の監査の妥当性の評価,すなわち,監査手続や監査判断に問題があったか否かを調査することを目的としていない」(調査報告書286頁)として判断を留保しているが,その一方で,「会計監査人の気付きにくい方法を用い,かつ会計監査人からの質問や資料要請に対しては事実を隠蔽したり,事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示して説明するなど,外部の証拠により事実を確認することが困難な状況を巧みに利用して組織的に行われた......」などと述べるなど,言葉の端々に監査人に対する好意的ともいえる言及がある。このことは客観的であるべき第三者委員会報告として適...