書評 渡邉 泉著「帳簿が語る歴史の真実 ~通説という名の誤り~」

(同文舘出版刊/本体2,800円+税)

大阪経済大学 教授 小谷 融

( 50頁)

本誌読者の皆様は,企業会計基準委員会や国際会計基準審議会から発出される数多くの会計基準を理解するために苦労されていることと思われます。そのようなときに,一息入れて,コーヒーを飲みながら読める「会計史」の書物が発行されました。実務家にとっても,専門書としての会計史は読みづらいものです。しかし,本書は「専門書」ではなく,会計を専門としない人にも興味を持って読んでもらえる「読み物」として執筆されています。とは言っても,会計知識のない一般の方には難しいかもしれません。

筆者は日本会計史学会会長を務められた会計史の研究者です。これまでに発表された専門書においては,会計史の専門家としての立場から,歴史というフィルターを通して,現代会計が抱える様々な問題点に接近し,現代会計が進もうとしている方向を分析し,その危うさに警鐘を打ち鳴らされています。

本書は,筆者が,私たちが教わってきた通説と現存する中世の商人たちが残した帳簿等とを照らし合わせてみたとき,どうしても説明がつかない矛盾がある次の5項目について,通説に誤りがあるとして,それぞれ通説の概要,中世の帳場等から見た真実,なぜ通説は誤りを犯したのかを論じ...