特別対談 「会計監査に対する社会の信頼を取り戻すために」~変革に向けた新日本監査法人の取組みから考える 八田進二氏(青山学院大学大学院教授) / 辻幸一氏(新日本有限責任監査法人理事長)

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青山学院大学大学院 青山学院大学大学院教授 八田 進二
新日本有限責任監査法人 新日本有限責任監査法人理事長 辻 幸一

<編集部より>

東芝の不正会計事件の発覚から1年。監査を担当していた新日本監査法人は法人改革に取り組んでいる。この東芝事件は,一監査法人の問題としてだけではなく,我が国の監査の信頼性に係る問題として捉えられ,金融庁は昨年秋,有識者から成る「会計監査の在り方に関する懇談会」を立ち上げ,監査を巡る問題について議論を重ねてきた。今年3月にとりまとめた報告書では,様々な角度からの施策が提示されている。本誌では,懇談会の議論にも参画した青山学院大学の八田進二教授にご協力いただき,辻幸一理事長に法人改革の取組みを質すとともに,「会計監査に対する社会の信頼を取り戻すため」の課題を議論していただいた。

東芝事件の総括と新執行部が目指すもの

八田教授 新日本有限責任監査法人は,単に数ある監査法人の中の一つではなく,日本の監査法人制度導入の第1号として昭和42年に創立された当時の監査法人太田哲三事務所が源流にあることから,社会的な役割および責任は,他の監査法人とは比べ物にならないくらい大きなものがあると思っています。恐らく,当局もそういった責任や役割を自覚すべきだとの認識のもと,私どもから見てもかなり厳しい行政処分を下したのではないでしょうか。御法人は,行政処分後,業務改善計画を提示し,その進捗状況も公表してきているわけですが,まず,そのきっかけとなった東芝問題について,客観的な視点でどのように総括されるのか,伺いたいと思います。

辻理事長 金融庁から業務改善命令を受け,監査に対する社会の信頼を失墜させてしまったことは,大法人として非常に大きな責任を感じています。真摯に受けとめ,反省を込めて歩み出していかなければいけないというのは,私が2月1日に理事長に就任した時からずっと考え続けているところです。

その中で,東芝事件は,公認会計士・監査法人が東芝のような非常に大きな会社の監査を行うに当たって,ステークホルダーが何を求めているか再認識するきっかけになりました。

また,過去において東芝チームの監査自体,あるいは私どもが指摘を受けている品質管理上の問題については,真摯に対応すべきと考えてきたにもかかわらず,改善が十分に徹底できていませんでした。今回の件は,単に一エンゲージメントの問題と矮小化...