投資家とのより良い対話のための,IFRSの適用に向けて

野村総合研究所 上級研究員 三井千絵

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1.IFRSの開示の取り組みと情報利用者

IASB(国際会計基準審議会)は,最近,会計処理だけではなく開示についても力を入れ,またそれをアピールするようになった。きっかけは昨年冬までに意見募集されていた,向こう3年間から5年間の活動について広く意見を問う2015年アジェンダ・コンサルテーションだ。この時世界中から多く寄せられた「IFRSの財務諸表は使いにくい。開示の改善を望む」という声に応え,基本財務諸表の改善プロジェクトに取り組むことになった。そして今年6月末には,ハンス・フーガーホースト議長がチューリッヒで行ったスピーチの中で,「ベター・コミュニケーション」というテーマを掲げ,今後の主要な活動の一つとして,情報利用者が財務諸表から情報を読み取り,それを企業評価に用いる際の利便性を改善すると述べた。

基本財務諸表の改善プロジェクトでは,主要な論点として,まず損益計算書の営業利益を取りあげることになった。現在,基準に定義がない"中間的な利益"として営業利益が広く用いられている状況を鑑み,何らかの対策を講じなければ,企業が比較可能性のない様々な中間的な利益を開示し,情報利用者にとってミス・リ...