インタビュー 証券取引等監視委員会 長谷川 充弘 委員長

変わる証券市場の風景と監視委員会の今後の取組みについて
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証券取引等監視委員会 委員長 長谷川充弘

<編集部より>

今年で発足25年の節目となる証券取引等監視委員会(以下,監視委員会)の新委員長に,長谷川充弘氏が就任した(平成28年12月)。長谷川委員長は,委員長就任以前,大阪地検や東京地検の特別捜査部などにおいて様々な経済事件を取り扱ってきたご経験の持ち主である。本インタビューでは,当時の振り返りとともに,監視委員会が新たに策定した「中期活動方針(第9期)」のポイントや,問題の未然防止に向けた「フォワード・ルッキングな視点」による活動,IT化の進展に伴い生じてきた新たな法令違反への対応等についてお話いただいた。

1.就任後の所感等

近年,有価証券報告書の虚偽記載等の事案が起き,監視委員会の活動への注目・期待が高まっております。こうした中で委員長に就任された感想をお聞かせください。

監視委員会は,発足して25年の節目にあたります。証券市場などの公正性・透明性の確保のために大きな権限を有し,重い責任を持つ監視機関として,市場関係者をはじめとした多くの方々から期待されています。監視委員会の委員長として重責を担いますので,身の引き締まる思いであります。

委員長のご経歴を踏まえてお尋ねします。委員長就任以前は,監視委員会の活動をどのようにご覧になっていましたか。また,実際に内部に入られてこれまでと違った御認識などはもたれましたか。

私が検事になって若手から中堅になるような頃にバブルが崩壊しました。当時は大阪地方検察庁の特別捜査部に在籍しており,その頃に証券市場について考えさせられる事件がありました。ひとつは,ある関西の会社が,バブルの時期特有の財テクの失敗から大きな損失を出しました。それが公表される前に,メインバンクである関西の金融機関が売り抜けをして巨額の損失を回避したのです。しかし当時はこういう委員会もなければインサイダーを規制する法律もなく,みな歯がゆい思いをしたことがあります。私は,それを間近に見ていました。

それからある経済事件,端的に言えば「イトマン事件」です。その原点と言われているのは,当時東証一部上場の雅叙園観光の簿外債務ですが,それをさらに遡ると,いわゆるブラックマネーが流れ込んだと言われる仕手戦があります。それらの後始末として,雅叙園観光が巻き込まれ,簿外手形が乱発されたことが「イトマン事件」の背景にあると言われています。私は...