世界会計よもやま話 コンピュータ犯罪,サラミ法の始まり

愛知工業大学 教授 岡崎 一浩

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1960年代後半,米国ニューヨークの銀行で,あるプログラマーが顧客の多くの預金口座の利子の端数を切り下げ,それらを集めて自分の口座に振り込んだ。より正確には,アメリカの預金利子の端数計算はセント未満の金額は本人のものとして計算上は溜め置きし端数が累計して1セントを超えたらその1セントを本来の名義口座の利子に加算すべきことになっていたが,事もあろうか同人が自分の口座に集めて加算してしまった。

この不正方法は業界用語でサラミ法(Salami slicing)として知られ,不正行為が発覚しない程度の少量を多数回にわたり窃取する行為を言う。サラミソーセージを丸ごと1本盗んだら発覚するが,少しずつスライスして合計1本分を盗んだらなかなか発覚しないため,サラミ法と命名された。

1960年代後半はまだコンピュータ犯罪が珍しい時代である。これが実在の犯罪であれば当時としては大ニュースになったと思われる。しかし本件は有名な割には,舞台となった銀行はどこで,犯人とされるプログラマーは誰で,いつ発覚したかが明確ではない。これに関してネット検索をしても,明確な文献が見当たらない。

実はこの話,都市伝説(urban ...