ハーフタイム 『宝島』から『水車小屋のウイル』へ

~子供から大人まで魅了するスティーブンソン文学~
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最近の経理マンの中には,『宝島』と聞けば,ニコラス・シャクソンの近著『Treasure Islands』(2011)を思い出し,"タックス・へイブンの闇"の話かと誤解する人がいるかも知れない。

だが,ここで取り上げるのは,子供時代を懐かしく思い出し,もう一度手にとってみるべき少年文学の古典である。岩波少年文庫(岩波文庫ではなく)に収録されているからといって,軽く見てはいけない本である。文章が素晴らしいので英文で読むと良いとは聞いていたが,物語の第1章のタイトルに出てくる"Old Sea Dog"が"老航海士"を意味するなど,19世紀の帆船用語や海賊語があまた使われているから,こなれた邦訳のほうが手っ取り早く読める。

海洋冒険小説としてのスティーブンソン『宝島』(1883)の面白さは,デフォーの『ロビンソン・クルーソー』(1719)と双璧を成している。作者2人は,ともにスコットランド出身であり,少年の眼を海へ外国へと誘い,冒険心を掻き立てる点も共通している。

『宝島』が大人になっても楽しいわけは,スティーブンソン自身が描いた一枚の地図を基にして,そこから宝探しの冒険を展開させるときの緻密な構想...