CFOに必要な財務リテラシーとは何か?第4回 配当性向30%の誤謬

東洋大学客員教授・エーザイ常務執行役CFO 東洋大学客員教授・エーザイ常務執行役CFO 柳 良平

( 18頁)

1.「配当性向30%は魔法の数字」という幻想

配当政策のKPI(主要業績指標)について,わが国で最も人気があるのは配当性向(配当性向=配当支払額/純利益(%))だろう。多くの日本企業が配当性向を開示して,メディアも株主還元指標としては,まず配当性向を取り上げる。

かつて米国企業は株主還元に積極的で,日本企業は配当に消極的との批判があったが,生保協会(2017) によれば,近年の日本企業の配当政策は進歩して,実は日米の平均配当性向は約30%でほぼ同じである(図表1)。

[図表1]日米配当性向比較(平均値)
日米企業の配当性向の推移

日米の配当性向の平均値がおおむね30%水準(20‐40%レンジ)であることから,多くの日本企業は同業他社と横並びで配当性向30%レベルをめざせばよいと考えている。そうした企業やマスコミも,それで世界の株主・投資家も納得すると想定しているのではないか。「配当性向30%さえやっておけばよい」「配当政策は米国にすでに追いついた」という声もよく聞かれる。日本においては,配当性向30%は「魔法の数字」なのである。

2.配当はパズル

しかしながら,配当はそう単純なものではない。基本的に...