監査報告書の「透明化」に向けて 第1回 監査制度の観点から

青山学院大学大学院 教授 町田祥弘

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本稿では,今後,検討が開始されようとしている監査報告書の拡充に向けての検討課題を識別したい。監査報告に関しては,監査論上の重要な課題もあるものの,本稿では,監査報告書改革の意義及び動向を確認した上で,制度上,及び各当事者における課題に限って検討することとしたい。

1.グローバルな監査報告書改革

本誌前号にて関口智和氏が紹介していた ように,2015年1月及び4月に,国際監査基準(International Standards on Auditing: ISA)が改正及び新設され,従来の監査報告書が大幅に拡充されることとなった。適用時期は,2016年12月15日以降に終了する会計年度からである。

一般に,監査報告書の透明化,又は長文化などと言われているように,新設されたISA701「独立監査人の監査報告書における重要な監査事項(Key Audit Matters: KAM)のコミュニケーション」に注目が集まっているように解される。しかしながら,今般のISAにおける監査報告書の拡充の内容は多岐にわたっている。たとえば,KAMの記載の他にも,監査意見を監査報告書の本文の冒頭に記載すること(ISA7...