「監査法人のガバナンス・コード」への対応を聴く 本企画の趣旨について

青山学院大学大学院 教授 町田祥弘

( 11頁)

今回から「『監査法人のガバナンス・コード』への対応を聴く」という連載が開始される。はじめに,本企画の趣旨を説明したい。

2017年3月,金融庁より「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード;以下,コード)が公表された。コードは,東芝の粉飾決算にかかる監査の失敗を受けての議論の中で,監査法人の組織的な運営のためのプリンシプルを確立し,当該コードの適用とその遵守状況についての開示を行わせることで,監査法人の監査品質の向上を図ることが目途とされたのである。当初,主な対象とされていた大手監査法人に限らず,すでに13の監査法人がコードの採用を表明している。

コードにおいては,職業的懐疑心の発揮を確保するためのリーダーシップの発揮,運営・監督態勢の確立,人材啓発,人事配置・評価等の多岐にわたる目的が掲げられている。各法人においては,これらの目的をどのように達成しようとしているのだろうか。今回の企画の趣旨の1つはその点を明らかにすることにある。

コードの遵守というと,どの監査法人も横並びに,チェックボックス的な対応を図っているだけのようにも受け止められがちである。しかしながら,当然に,各法人には歴史的経緯や,組織及び人材の相違,あるいは文化的な相違を背景として,その取組みには多様なものがある。本インタビューではその点を垣間見ることができる。

また,第2の趣旨は,コードや東芝事件以来の監査規制の強化の動向が,単に監査法人の品質管理の局面だけではなく,監査の現場にいかなる影響を及ぼしているのかを尋ねることにある。そのため,原則として,監査法人の品質管理の責任者の方1名と,監査の現場に携わる監査実施の責任者の方1名にインタビューに応じていただいている。いかに品質管理が充実しても,監査の現場が疲弊していては意味がない。この点において,現場の生の声を聴く機会を得たいと考えたのである。

併せて,各監査法人における監査の品質に対する取組みに関して,特徴的な点や「強み」といった点を伺っている。監査法人は,業容の差こそあれ,どこも似たようなものだと思われるかもしれないが,実際にはそんなことはない。各法人において,力を入れている点,自ら誇れる点を主張していただいた。

監査法人は,守秘義務契約もあって,自らのことを語る機会がほとんどない。東芝事件以来,わが国の監査法人は,あたかも,まとも...