ハーフタイム 人間を知り,自己を知る

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人間を知り,自己を知る意義は,古今東西の思想家によって繰り返し論じられてきた。最近の世界の指導者の中にも,明らかに事実に反する身勝手な提案,人の気持ちも利益も考えない短兵急な言動によって世間を動揺させることが多々あり,その都度想い出すのはこの古くて新しいテーマである。

ギリシャ時代以来,「汝自身を知れ」というマキシムによって,善悪の判断を誤らない自制心・克己心があって始めて人々を治め国家を治めることができるといわれてきた(クセノフォン『ソクラテスの思い出』)。東洋には「子曰く,人の己を知らざるを憂えず,其の不能を憂うる也」(孔子書簡第一四),すなわち他人の自分に対する評価よりも自分の欠点に気が付かない「自己認識の甘さ」を憂えよと説いた故事や,「彼を知り己を知れば,百戦あやうからず」(孫子)という格言が伝わっている。

近代に入ると,フランスのモンテーニュは,宗教革命時代のカトリック教徒とプロテスタントが凄惨に殺し合った場面をみてきたせいであろうが,その著『エセー』第二巻で,次のように述べている。「私は猫と戯れているとき,ひょっとすると猫のほうが,私を相手に遊んでいるのではないだろうかと思う」...