わたしの働き方Vol.5 ~独立公認会計士インタビュー~

松田眞理公認会計士事務所 所長 松田眞理

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独立公認会計士の方々に,これまでのキャリアや仕事の軸などについて聞く本コーナー。今回は,女性起業家の会計・税務の効率化や売上拡大の支援を手掛ける松田眞理氏。租税教室講師として,「お金の話」ができる子供達を育てる活動にも取り組んでいる。

1 「手に職をつける」ため資格取得へ

─松田さんが公認会計士を目指したきっかけを教えて下さい。

松田  映画「ウォール街」に憧れて,社会人デビューは証券会社でした。営業成績はまあまあだったのですが,ノルマを課せられた商品を売ることに疑問を感じて1年半で辞めました。

私の父は会計士だったので,辞める時の条件として「簿記2級取得」と言われまして。その時に「資格を取るのも面白いな」と感じて,公認会計士を目指しました。英文科卒で簿記の知識もなかったのですが,手に職をつけようと思ったんです。

─合格後のキャリアを教えて頂けますか。

松田  2001年に合格した当時は売り手市場でしたね。受験生が望めばどこの監査法人にも入れるような状態で,私の性格に合っていると思ったトーマツに入りました。

国内監査グループに配属されて,シニアスタッフ・インチャージという監査現場のチームリーダーをやってくれないかというお話を頂いたんですね。その頃父の体調が優れなくて,「実家の事務所をどうするか?」という問題もありました。ここでインチャージを任されるとすぐには辞められないですし,トーマツを辞めて父の事務所を手伝う決断をしました。監査も税務も両方手掛けて,そこで3年半ほど研鑽を積んだ形です。

その後結婚して妊娠が分かった時に,自分の会計士事務所を独立開業しました。女性起業家の支援や,子供に「お金の話を自分の言葉で話すことのできる大人になってほしい」という思いがありましたし,ずっと父の事務所を手伝っていてはいけないということで離れました。

2 女性の活躍を支えたい

─女性起業家を支援したいという思いは,どのようにして芽生えたのですか?

松田  アロマテラピーやマッサージ,リフレクソロジーなどの学校に通ったとき,周りは当然,セラピストを目指す女性が大勢いました。彼女達は独立してビジネスを始めたいのに,お金のことを誰に聞いていいのかわからない。その人達から開業や税務に関する相談を受けて,セミナーを開催するようになりました。"セラピスト専門会計士"として,「セラピスト・ヒーラーのためのお金の強化書」という電子書籍も出しました。

そういった活動が広がり,今はセラピストのほかにも,音楽家やヨガティーチャーなど女性起業家全般を支援する仕事もしています。具体的には,経営の立て直し,私独自の「ときめき事業計画書」というのがありまして,それをもとにお手伝いをしています。

─監査法人勤務の女性会計士にどういう制度ができればいいなとお考えですか。

松田  今,監査法人を辞める女性会計士が多いという話も聞いています。現状,育休・産休制度や介護・病気に関する制度は,ある程度カバーできているんですよね。

私が心配しているのは,働けて,病気でもないし,子育ても介護もないけれども,体は辛い,いつ病気になってもおかしくない女性達です。女性には独特のリズムがあって,彼女達がそのことを認識すれば不調があっても安心できるし,職場がそういうことを理解してくれれば,安心感につながると思うんですね。

例えば,チームで締め切りのある仕事だから働かなければいけないけれども,体調が優れない日は成果物さえ提出すれば在宅勤務を認める制度などがあればいいなと思います。

3 自分で仕事を創り出す力を

─子供向けの活動について教えて下さい。

松田  東京税理士会の租税教室認定講師として,子供向けの租税教室講師をしています。

小学校,中学校,高校に行って話をするのですが,子供達は,税金の話というとつまらなそうな顔をするじゃないですか。私はそれを覆すのが大好きなんです。日本の国の借金の話なども盛り込んで,最初はだるそうに聞いていた女子高生にも話を振るんですね。そうしたら目をキラキラ輝かせてくれて,最後には「税理士になりたい」と言ってくれた生徒さんもいました。

どうしてもお金って,ちょっと汚いものや怖いものだというイメージもありますよね。一方で,監査や税務をしていると,お金の後ろに色々なヒストリーがあって,それをひも解いていくのが会計士や税理士であることを子供たちに伝えたい。子供のお金への恐怖心を払拭して,骨太の子供達になってもらう環境作りに携わりたいと思っています。

─若手の会計士の方々に何かアドバイスがありましたら,お願い致します。

松田  会計士資格は何かを得るための道具に過ぎないと思います。会計の言語を手に入れることと,資格で発言力が強くなるという面もあります。AIによって,会計士は真っ先になくなる仕事のリストに載っていますよね。そうなった時に自分で仕事を創る力をつけてほしいし,常に模索をしてほしいと思います。

松田 眞理(まつだ・まり)氏
証券会社を経て,監査法人トーマツ入所。結婚後2児の母に。2006年に会計事務所開業。自然療法を学ぶ過程で出会ったセラピストの事業計画・独立開業サポートを手掛ける。女性起業家支援のための「わたしのしごと・プランニング講座」や「こどもに教えるお金のはなし」講座等のセミナーも行う。著書に「セラピスト・ヒーラーのためのお金の強化書」(プラスワン・パブリッシング)。