事例から学ぶ適時開示 第1回 適時開示制度の概要と不適正な開示の発生傾向について

‐不適正な開示事例の解説‐

株式会社東京証券取引所 上場部 ディスクロージャー企画グループ 課長 新井 琢磨

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1.はじめに

株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)では,上場会社に対し,有価証券上場規程等(以下「上場規程」という。)に基づいて投資者の投資判断に重要な影響を与える会社情報の適時かつ適切な開示を義務付けている。

適時開示が適正に行われない場合,投資者の合理的な投資判断に支障をきたし,公正な価格形成が阻害されるほか,未公表の重要な会社情報を利用したインサイダー取引が発生するリスクも高まることとなる。したがって,適時開示は,投資者の金融商品市場に対する信頼を維持し,自己責任原則のもとで投資者が有価証券投資を行うための基礎として,きわめて大きな役割を果たしている。

現在,東証には約3,600社の上場会社が存在し(2018年3月末時点),上場会社による適時開示の累計件数は年間80,000件を超えるが,その中には,開示時期の遅れや内容に誤りのある開示など,適時開示が適正に行われなかったと評価される事例(以下「不適正な開示」という。)も認められる。

本稿では,上場会社各社の適時開示の実務担当者を念頭に,上場規程に対する理解の浸透と適時開示業務に資する情報の提供を目的として,不適正な開示を未然に防...