事例から学ぶ適時開示 第2回 決定事実に係る不適正な開示の事例・留意事項

‐不適正な開示事例の解説‐

株式会社東京証券取引所 上場部 ディスクロージャー企画グループ 調査役 柴田 崇史

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はじめに

第1回( No.3355 )では,株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)の適時開示制度の概要について触れるとともに,不適正な開示の最近の傾向を紹介した。第2回となる今回は,適時開示のうち,決定事実について,不適正な開示が生じやすい開示項目を中心に,具体的な事例を紹介しつつ,留意点を述べることとする。

なお,本稿において意見にわたる部分は筆者の個人的見解であり,所属企業の見解ではないことをあらかじめお断りする。

1.決定事実に係る不適正な開示の現状

適時開示における「決定事実」とは,上場有価証券の発行者(以下「上場会社等」という。)が,自らの意思により決定する重要な会社情報のことをいい,上場会社等の業務執行を実質的に決定する機関による決議・決定が行われた場合に,直ちにその内容を開示することが義務付けられている。

第1回で紹介したように,「開示漏れ・遅延」と「開示内容の不備」に大別される不適正な開示のうち,「開示漏れ・遅延」が全体のおよそ7割を占めるが,決定事実については特にこの傾向が強く,9割程度が「開示漏れ・遅延」に該当する。また,具体的な事例などは後述するが,「開示漏れ・遅延」と...