インタビュー 米国と日本の監査について

~PCAOB勤務経験を通して~
( 24頁)
PwCあらた有限責任監査法人  石橋 武昭

<編集部より>

近年,上場会社による会計不正事例が相次ぎ,会計監査のあり方等について改めて注目が集まっている。そこで本誌では,日本と米国の両方の公認会計士資格を保有し,米国のPCAOB(公開企業会計監視委員会)に約10年間勤務した経験を持つ,PwCあらた有限責任監査法人パートナーの石橋武昭氏にインタビューを行った。テーマは,日米における監査の相違点や,今後導入が検討されている監査報告書におけるKAM(Key Audit Matters)や,監査の品質指標であるAQI(Audit Quality Indicator)まで多岐にわたった。

◆米国のPCAOBに約10年間勤務されていたとのことですが,これまでの経歴を教えて頂けますか。

大学生のときに家庭教師先のお母様に「会計士は良い職業らしいよ」と焚き付けられたのがきっかけで会計士の勉強を始め,1994年に合格しました。普通はその後,監査法人に勤務するのですが,私の場合は単身米国に渡り,Big4会計事務所の一つでキャリアをスタートしました。

といっても,就職活動の最中に,その提携先であった日本の監査法人からNY事務所にポジションがあるという話をお聞きし,一も二もなく手を挙げた,というのが真相です。その理由も単に希少価値の高い選択肢だと思ったからであり,米国に住みたいという気持ちが前からあったわけでもありません。実を言うと海外旅行すら行ったことがなく,米国引越が初めての海外経験という無鉄砲さでした。若いというのは恐ろしいものです。

その会計事務所で11年間監査業務に従事した後,縁あってPCAOBに転職しました。そこで10年近く会計事務所のSEC監査の検査に携わりましたが,家庭の事情があって昨年夏に帰国し,PwCあらた有限責任監査法人に転職して今日に至っております。

◆PCAOBに転職された理由は何でしょうか。

10年前にPCAOBに転職した理由は色々あるのですが,話すと長くなるので,聞かれた時には「初めての子供が生まれて,一緒に過ごす時間を取りたかったから」と答えることにしています。

実際のところ,PCAOBはワーク・ライフ・バランスをすごく重視している会社で,長時間労働無しに監査のクリティカルな局面だけを議論して成長していけるのが大きなメリットでした。また,何か問題があると時間を区切らずにとこと...