ハーフタイム マーク・トウェインの人間機械論と文明論

  

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少年冒険小説の分野で19世紀の米国を代表する作家はマーク・トウェイン(1835~1910)である。『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』などは,豊かな自然のなかで少年たちが開拓者精神や冒険心を発揮してのびのびと活躍する物語であり,わが国でも児童書が大いに人気を博してきた。

ところが,原作を読み直してみると予想外に奥深い内容であり,とても子供用とは思えないところがある。『ハックルベリー・フィンの冒険』は新興国米国からみた欧州貴族や伝統的価値観の欺まんや愚劣さを痛烈に批判する文明論として読むこともできる。

さらに『人間とは何か』(1906)となると,これが雄大なミシシッピー河を舞台としてトム・ソーヤを書いた同一作家によるものとはとうてい思えない不気味さがある。対話形式をとりながら,老人は青年が信じる人間性をことごとく否定し,話の結論を常に人間機械論へと導く。災難にあった人を助ける行為は慈善心によるものだと主張する青年に対し,いやそうじゃない,それはまず自分自身の安心感や心の慰めのためだ,隣人を助けるのは社会から良く思われたいためだ,人間の心は外部に反応する機械にすぎないという...