ハーフタイム 公認会計士は経済社会の名脇役?

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この夏,木村拓哉が検事に扮した法廷サスペンス映画が人気を博したそうである。国内外を問わず,医者や弁護士が主人公になったテレビドラマや映画はこれまでに数多く作成され,名作といわれるものも多い。それに比べると,公認会計士が主役になったドラマはほとんどない。確か,10数年前にNHKでやっていたのを見たことがあるが,内容的にどうもイマイチで,視聴率もパッとしなかったようである。例えば,先述の木村拓哉や小栗旬のような見栄えの良い俳優が公認会計士として颯爽と活躍してくれるドラマでも制作されれば,公認会計士業界ももっと人気が出るかもしれないが,どうして公認会計士を主役にしたドラマというのは作りにくいのか。仕事が専門的すぎるとか,雰囲気が暗いとか,職業的にイマイチ知名度が低いとか...,色々な偏見があるのかも知れない。また,医者は患者に対して,弁護士はクライアントに対して最善を尽くすのに対して,公認会計士は公益という観点に立って職務を遂行するため,どうもその仕事の意義が理解されにくいようである。長年大学で監査論を教えてきた身としては残念でならない。

ただ,よくよく考えてみれば,確かに公認会計士という職業は地味な仕事かも知れないが,公認会計士が財務諸表をしっかり監査しなかったらどういうことになるか。近年発覚して大きな社会問題になった東芝の会計不正事件を思い出せば明らかである。公認会計士がきちんと監査するから投資者等は安心して財務情報を利用できるし,その結果として証券市場も公正かつ効率的に機能するのであって,もし監査がなかったら(あるいはうまく機能しなかったら),証券市場を通じた資金調達は困難になり,マクロ・レベルでの効率的な資源配分にも支障を来すことになる。それこそ,経営に支障を来す会社や投資者が数多く現れるであろう。

そう考えると,公認会計士という仕事は地味ではあるけれども,証券市場の番人としてきわめて重要な役割を果たしているのであって,確かに経済社会の主役ではないかも知れないが,ドラマに欠かすことのできない名脇役という感じがしないでもない。それに,ひとくちに脇役とはいえ,例えば,先般亡くなった菅井きんや樹木希林のように,その圧倒的な存在感で主役を食ってしまうような人がいることを考えれば,決して侮ることができない。

考えてみれば,ドラマにせよ映画にせよ,主役だけで制作できるわけではないし,いい脇役の支えがあってこそ,優れた名作を作ることができるのである。今流行の将棋にしてもしかり。歩の無い将棋は負け将棋である。公認会計士は,決して経済社会における主役ではないかも知れないが,時に主役を食ってしまうような名脇役!!若い人たちにとっては,しっかりと会計を学んで,主役を食ってしまう公認会計士を目指してみるのも,面白いと思うのであるが,いかがであろうか。

(案山子)