ハーフタイム がん免疫療法の発見と会計進化の共通点

解説
( 36頁)

画期的ながん免疫療法を発見した本庶佑氏の近著『がん免疫療法とは何か』(岩波新書)は,会計や人間社会の進化に係るいろいろな疑問に極めて分かり易く答えてくれる。

一つは,生命科学はどのように発展してきたか,とくに日本人の最大の死因である「がん」を,化学抗がん剤や外科的切除,放射線治療によることなく,自分のもつ免疫力で直す治療法はどのように発見できたか,これは生命科学の成果に係る最も興味深い点である。ここではこの疑問への回答を参して,会計研究の進化プロセスを振り返って見たい。

同書は,免疫療法発見の経緯について,第1~2章で詳しく説明し,巻末に収録された「ノーベル生理学医学賞受賞晩餐会スピーチ」でも簡潔に報告している。それは,60年前にオーストラリアのバーネット博士によって発見された「免疫療法の概念」を拠り所として,研究者達の世界的競争,とくに治療薬発見に向けた激しい先陣争いが始まった。科学的知識の発展をもたらした方法は,知識一般の発展と同じ様に,“試行錯誤によって学ぶ,誤りから学ぶ”古典的なものだったが,免疫力を強化する方法はそう簡単に見つかるものではない。突破口となったのは,...