ハーフタイム 合理的で冷徹な会計を、いかに親しみ易く役に立つ会計に変えるか

解説
( 44頁)

米国のミクロ経済学者 ケネス・アローは自著『組織の限界』(2017)の中で,「無味乾燥で難解な利潤と損失の計算は,壮大な情熱と結び付くものではない」と,いかにも会計制度に背を向けたようなセリフを吐いている。だが著者は,“ホモ・エコノミカス”(合理的判断ができる経済人)と“効率的市場仮説”に立脚する主流派経済学に背を向けて,不確実性と情報の経済学を築き,1972年にノーベル経済学賞を受賞した人である。それだけに,経済社会には道徳と倫理が欠かせないと感じている人,難解な会計に少々疎外感や不安を感じている人には,聞捨てにできないばかりか,むしろ反省させられる大事なセリフである。

1980年代の会計ビッグバンにワクワク感を味わった筆者からみれば,現代会計に難解さと疎外感を感じる大きな理由は,米国の主流派(新古典派)経済学の影響を受けすぎて,市場中心・株主利益中心に偏向し,普通の企業人の感覚から隔たりが生じていることだ。

他方,公正価値測定や将来見積りなどを多用するいまの会計基準の難解さを解きほぐして,親しみ易いものに組み替えることは大変難しい仕事になる。批判するのは易しいが,さあ代...