<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第1回 わが社はIFRSを採用すべきか

解説

国際会計基準審議会(IASB)前理事  鶯地 隆継

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「暖簾に腕押し」という言葉を検索すると,「暖簾に腕押ししても,暖簾は抵抗しないが,だからといって暖簾が破れてしまうわけでもない。さらりと受け流されてしまって,いくら「暖簾に腕押し」しても暖簾は元の状態のまま。」といった説明が出てくる。この連載のお話を頂いた時に,真っ先に浮かんだタイトルがこの,「暖簾に腕押し」という言葉だった。

筆者は2011年7月に住友商事を退職し,国際会計基準審議会(IASB)の理事に就任し2019年6月末に任期が満了まで,8年間IASBの理事を務めた。また,理事となる前にIFRS解釈指針委員会(IFRIC)の委員も5年間務めたので,都合13年間IFRS基準設定に直接関与する仕事をしていたことになる。その13年間の経験について一番ぴったりする言葉を選ぼうとして行き着いたのが「暖簾に腕押し」という言葉だった。

ただ,このコラムでは国際会議において日本の主張を理解してもらうことの難しさや,それに要する時間や労力について述べるつもりはない。このコラムの目的は,IFRSを採用している,していないに関わらず,多くの...