書評 松本祥尚・町田祥弘・関口智和 編著 『監査報告書論 KAMをめぐる日本および各国の対応』

(中央経済社刊/本体5,000円+税)

太陽有限責任監査法人 東京事務所長 シニアパートナー 公認会計士 柴谷哲朗

( 42頁)

KAMによる監査改革の今後を問う

本書の題名は「監査報告書論」とされているが,「KAMをめぐる日本および各国の対応」という副題が示しているとおり,日本あるいは英国・米国等の海外主要国において,どのような議論を経てKAMが導入されようとしているのかが論じられている。監査報告書の改革が始まろうとしている今日の視点から,過去の監査報告書に関する課題が見つめ直されており,読者は,本書を読み進むうちに,今後,監査報告書改革がどう進められるべきかについて強く問いかけられる。

昨今の一連の監査改革は,近時の不正会計などを契機とし,会計監査に対する社会的な信頼を取り戻すために行われている。個々の監査業務の結果が監査報告書に記載され,それだけが社会の不特定多数の利用者と会計監査人を繋ぐ接点であることを考えれば,社会が求める情報を監査報告書に表現することは,監査の信頼性回復の中核となる施策であることは明らかである。

本書は,日本における監査研究をリードし,長年にわたって監査報告の研究に取り組んでおられる松本祥尚氏,町田祥弘氏,そして,国際監査・保証基準審議会(IAASB)の委員として監査報告書に関する基準の拡充...