会計不正の構造〈番外編〉ネットワンシステムズ株式会社「納品実体のない取引に関する調査・最終報告書(開示版)」を読んで

解説
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1.はじめに

ICTシステム構築を事業とするネットワンシステムズ株式会社(以降,「N社」という)において,前回2013年に続き今回2019年も国税局による税務調査(反面調査を含む)を契機に多額の架空取引の存在が発覚した。

取引の内容は,前回2013年が外注業者に委託するシステム構築関連作業における架空の外注費計上,今回2019年は(会社が販売権を有しない)非正規品の直送取引を装い,複数の同業他社を巻き込んだ架空循環取引であり,いずれも主要な事業領域ではなく,周辺的・補助的な事業領域において発生した取引であった。

また,ともに経営陣主導ではなく担当者主導の不正として,主謀者は,各調査報告書では,前回は「優秀な営業マン」,今回もその営業実績や個性により「特別視」される存在として記述されている。損益に及ぼす影響総額は,前回は2005年から2012年にわたり7億円の被害,今回は,2015年から2019年にわたり36億円の損失とされているが,今回,架空取引の全貌が明らかになったかどうかについては,中間報告の段階から最終報告書の開示の段階に至ってもなお,ヒアリングを実施できていない取引先...