KAMの早期適用に関する座談会―利用者編―

ニッセイアセットマネジメント  井口 譲二
SMBC日興証券  大瀧 晃栄
みずほ証券  熊谷 五郎
野村総合研究所  三井 千絵
[司会・進行] 青山学院大学大学院  町田 祥弘

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2018年7月5日,金融庁企業会計審議会において「監査基準の改訂に関する意見書」が承認の上,公表され,わが国においても,監査報告書に,監査上の主要な検討事項(以下,「KAM」)が記載されることとなりました。KAMの規定の適用は,上場企業の2021年3月決算にかかる監査からとなっていますが,2020年3月期からの早期適用も認められていました。実際の早期適用企業は,46社(非公開含め49社)でした。同意見書によれば,KAMは,「監査人が実施した監査の透明性を向上させ,監査報告書の情報価値を高めることにその意義がある」とされています。そこで,まず,今般のKAMの早期適用の状況について,財務諸表利用者たるアナリストの皆さんにお集まりいただき,座談会を開催することと致しました。

1.KAMという制度に対する期待と評価

町田祥弘氏(以下,町田) :本日は,監査上の主要な検討事項(以下「KAM」)の早期適用の状況を踏まえて,財務諸表利用者の方々からご意見を伺ってまいります。まず,KAMの記載という新しい制度自体については,どのように捉えていらっしゃいますか。

熊谷五郎氏(以下,熊谷) :利用者にとって監査報告書は遠い存在でした。基本的に無限定適正が前提でそれを信頼していますが,中身はブラックボックスですから,無限定適正が続いてきた企業であっても,突然不祥事や継続企業の前提に疑義が生じるようなことが起きると,当該監査人の行う監査の品質や監査制度そのものに対する信頼が大きく揺らいだりします。KAMの記載によって監査報告書に記載される情報が充実することで,監査報告書や監査人の仕事が利用者にとって身近なものになってきたと感じます。監査人の方々もKAMによって利用者とのコミュニケーションを意識されるようになってきたと思いますし,監査人と利用者との新しいコミュニケーションツールが備えられたと理解しています。

三井千絵氏(以下,三井):KAMを先に導入した英国の投資家等と2016年に接点をもって以来,日本への導入を楽しみにしていました。英国では導入時に監査委員会との議論を重視し,監査委員会側もKAMについて報告をしていると聞いており,日本でもこうしたガバナンス面の取組みが増えるのではと期待していました。そして英国のFRC(財務報告評議会)がKAMの議論を始めた時に最も目指していたのが,それに伴って年次報告...