<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第22回 金融緩和と財政拡大の影響(その1)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

( 22頁)

マエストロ

マエストロという言葉は,主に芸術家に対する敬称として使われ,クラッシック音楽の指揮者などに対して使われる。すぐに思い浮かぶのは,ベルリン・フィルの終身指揮者だったヘルベルト・フォン・カラヤンである。タクトの動き一つで,大オーケストラを操り芸術的音楽を奏でる。

そのマエストロの称号を与えられたのが,1987年から2006年まで19年間もFRB(米国連邦準備制度理事会)の議長を勤めたアラン・グリーンスパン議長である。彼は議長就任直後にブラック・マンデーに見舞われた。その時彼は間髪を入れずに金融緩和を断行し,市場がパニックになるのを防いだ。グリーンスパン議長はその後も経済の体温を見ながら,金融の引き締めと緩和を繰り出すという巧みな金融操作を行い,米国経済の長期的な成長を支えた。議長の金融操作の手綱さばきは芸術的であるとして,いつしか彼はマエストロと呼ばれるようになった。

グリーンスパン議長の後を継いだベン・バーナンキ議長は,マエストロと呼ばれたグリーンスパン議長とは大きく趣を変えた「ヘリコプター・ベン」という異名を持った。彼の持論は金融危機に際しては潤沢な通貨供給が最も重要というもので...