【INTERVIEW】金融庁企画市場局 井上俊剛参事官―新型コロナ対応,新時代の決算・監査の在り方について―

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金融庁企画市場局 参事官 井上俊剛
【編集部より】 未曽有の災禍に見舞われた2020年が終わろうとしている。上場各社は4月以降,緊急事態宣言下での決算・監査実務への対応を迫られ,一時は有価証券報告書の提出や株主総会の開催自体が危ぶまれた。本誌はこのほど,当時の各施策について関係省庁と連携・情報共有を行う「連絡協議会」の事務局を務められた金融庁企画市場局・井上俊剛参事官(前・企画市場局企業開示課長)にインタビューを実施した。本年1月に企業開示課長(当時)としてご寄稿いただいた企業情報開示・監査関連の諸施策の進捗ならびに新型コロナウイルス感染症を踏まえての金融庁の対応を振り返っていただくとともに,With/Afterコロナを見据えた新時代の決算・監査の在り方等についてお話を伺った。

1.新型コロナウイルス感染症への対応

連絡協議会の発足

編集部  本誌の年初号( No.3439 )では,2020年の企業開示行政の展望について,井上参事官にご寄稿いただきました。その後間もなくして,想定外の事態が生じます。新型コロナウイルス感染症の発生と世界的な拡大です。国内では,目前に迫った3月期の決算・監査実務に重大な影響を及ぼすことが想定される事態になりました。その当時,企業開示課長のお立場で早い段階から対応に当たられたとお聞きしています。どの段階でどのような危機意識を持たれたのでしょうか。

井上俊剛氏(以下,「井上」)  新型コロナウイルスについて最初に危機感を持ったのは1月の下旬,国内で最初の感染者が出た段階だったように思います。当時は企業開示課長として課内の新型インフルエンザのBCPマニュアルを参照し,どのような対応が必要となり得るかを確認していました。その後,中国の武漢で感染が拡大し,日本企業の中国子会社における監査等に影響が出てくることが2月上旬には明らかになったため,2月10日付けで「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」 を公表し,有価証券報告書等の提出に支障がある場合は,財務局に相談の上,個別の承認で延長可能ということをお示ししたのが最初の対応だったと思います。

その後,3月に海外で爆発的に感染が拡大して,国内でも感染がかなり増えてきたという時に,次のフェーズで問題になったのは株式市場(マーケット)への影響の話でした。3月中旬ぐらいには市場にも大きなインパク...