<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第29回 市場か倫理か(財務vs非財務)(その4)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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ノブレス・オブリージュ

ノブレス・オブリージュとは,身分の高いものはそれに応じて果たさなければならぬ社会的責任と義務があるという,欧米社会における基本的な道徳観。もともとはフランス語のことわざで「貴族たるもの,身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」の意(デジタル大辞泉),だそうである。いかにも「欧米社会」らしい道徳観であるが,このノブレス・オブリージュの考え方は,現代社会の基本構造の一部になっている。歴史的検証は確認していないが,たとえば累進課税のような課税方式が当たり前のように受け入れられるのは,根底にノブレス・オブリージュ的な価値観があるからだろう。さらに,近現代の大きな社会的問題を解決するに当たっては,常にノブレス・オブリージュ的な考えを共有する人たちが先駆者となって,道を切り開いてきたともいえる。様々な慈善団体や,社会の誰もが手を出せない問題に取り組む団体,とりわけ,中立性が重要となる国際機関などはノブレス・オブリージュの発想がなければ運営できない。なぜならば,より多くのお金を出した人が組織を支配して利己的な運営をすれば,中立性は保てないし,社会的問題に対して適切な解決方法...