ハーフタイム 『塵劫記』にみる会計進歩の法則

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商工業が盛んになった江戸時代に,数学が世界に先駆けて大流行した。吉田光由(1598~1672)は,まず珠算塾を経営していた毛利重能に師事して日常生活に必要な算術を学び,次いで当代随一の漢学者といわれた外伯父の角倉素庵に師事して中国の算術書を学び,和算書『塵劫記』(じんこうき,大矢真一校注,岩波文庫)を著した。商人の売買取引で使われる掛け算の九九だけでなく,驚いたことに1÷2=0.5を「二一天作の五」(にいち,てんさくのご)と,呼ぶような割り算の九九も採用している。米俵を最下段に左右18俵並べ,その上に順次1俵ずつ少なく積み上げながら最上段には8俵積み上げた,さあ全部で何俵あるかという問いもある。台形計算として解けば(18+8)×11(段数)÷2=143俵となる。

ここで,“な~んだ,小中学生レベルか”と思えば早合点だろう。第20「開平円法の事」では東大入試問題「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」のレベルに達しており,商人の実用書に止まらず,多くの人々の知的好奇心を刺激し,桜井進によれば,井原西鶴や十返舎一九の文学作品を上回るベストセラーとなったからである(『夢中になる!江戸の数学...