Q&Aコーナー 気になる論点(322) 自己株式の一括取得

‐ASR取引とFCSR取引の会計処理‐

早稲田大学大学院 会計研究科教授 秋葉 賢一

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 2022年9月9日の日本経済新聞朝刊(以下「新聞報道」)では、大量の自己株式を機動的に取得する手法について、「会計処理の明確化が課題」としています。どのような会計処理が考えられるのでしょうか。

新聞報道で示されたFCSR(Fully Committed Share Repurchase)取引、すなわち、コミットメント型の自己株式取得取引は、事後調整を自社の株式のみで行うため、資本取引として会計処理されると考えられます。

〈解説〉

新聞報道の概要

新聞報道によれば、大量の自己株式を機動的に取得する手法は、米国においてASR(Accelerated Share Repurchase)取引と呼ばれ、米アップルや米ジョンソン・エンド・ジョンソンなどが活用しており、市場の流動性などにかかわらず、自己株式の取得を確実に遂行しやすいとしています。

ASR取引は、加速型の自己株式取得取引といわれており、後述するように、発行会社がデリバティブ契約を締結し、自己株式の取得株数の事後調整を現金か自社の株式で行います(吉川(2014))。これに対し、8月に大手ホームセンターが日本企業で初めて活用したFCSR取引は...