<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第70回 Goodwillと無形資産(5)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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プライスレス

お金で買えない価値がある、思い出はプライスレスというコピーがブレイクしたカード会社のCMによって、プライスレスという言葉が認知されるようになった。たしかに思い出には値段がつけられない。たとえば、自分にとって大切な人からいただいた贈り物や親の形見などは、どんなに高い値段をつけられても人に売り渡すことはない。また、誰も高値をつけて買おうとはしない。なぜなら、自分以外の人がそのモノに対して思い出を感じることはないからだ。それはノスタルジック・バリューといい、ノスタルジック・バリューは自分固有のものである。

そう考えると、ノスタルジック・バリューはモノに付帯しているのではなく、自分の心の中にあるのである。たとえば、ひびの入った自分には合わない眼鏡を父親の形見として残されたとする。眼鏡そのものの価値はほぼゼロで、自分の心の中にある思い出に価値があるのだ。では、価値ゼロの眼鏡を、明日が燃えないゴミの日だからといって、玄関に出せるかというと、それは絶対にできない。大事な形見をゴミに出せるわけがない。それは何故か。そこにシナジーが働くからだ。胸の中にある思い出が、眼鏡によって、呼び起こされる...