<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第92回 概念フレームワーク(8)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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誰がために鐘は鳴る

アーネスト・ヘミングウェイはアメリカのノーベル賞作家である。恥ずかしながら筆者はヘミングウェイの作品を読了したことはない(読みかけたことはある)のだが、彼の作品のタイトルは印象的なので、なんとなく親しみのある作家である。例えば、「日はまた昇る」や「武器よさらば」「老人と海」などである。その中でも「誰がために鐘は鳴る」は、作者自身も関わったスペイン内戦に関する作品で映画にもなったので印象深く覚えている。しかし何よりも印象深かったのは「誰がため」を「だれがため」とは読まずに「たがため」と読むというのを知ったことだった。このヘミングウェイの小説のタイトル以外で「誰」を「た」と読む場面に遭遇していない。

ただ社会人となり、色々な仕事に関わるようになって「誰のために、なんのために」という事を考える機会は増えた。この質問は物事の本質を見極める上で非常に重要である。

誰がために財務諸表はある

概念フレームワークの中でもっとも重要な論点の1つが財務諸表の目的についての明確化である。以前の稿でも述べたが、財務諸表の目的について、投資家の意思決定のためのものであるという考え方が始めからあった訳...