非上場株式の公正価値評価に関する財務会計上の議論の動向とその背景

~スタートアップの推進をきっかけとして~

 立教大学大学院客員教授 公認会計士 前田 順一郎

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我が国のスタートアップ育成に関連して、非上場株式の公正価値評価がテーマになることが増加している。また、それをきっかけとして、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)においても非上場株式の公正価値評価について議論がなされている。本稿では、この背景にどういった我が国の政策課題や環境変化があるのか、また、想定される論点としてどのようなものがあるのか、といった点についてまとめてみたい。

1.スタートアップ育成支援に関する政府・経済産業省の動向

2022年1月、岸田首相は年頭の記者会見において「スタートアップ創出元年」とすることを宣言した。その後、政府の「骨太の方針」では「スタートアップへの投資」が、重点投資分野の柱の一つになった。同年11月には、新しい資本主義実現会議において、スタートアップへの投資額を5年で10倍にする目標が決定されている。また、2023年6月に更新された「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)においても、引き続き「スタートアップの推進と新たな産業構造への転換」が重点分野とされている。

このようにスタートアップ育成は我が国の経済政策として極めて重要な位置を占めるものとされ...