会計基準の長い日々 第1回「反対1票!」~IASC、IOSCOとの苦闘

 公認会計士 西川 郁生

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はじめに

初めて国際会計基準委員会(IASC)の理事会に参加した1993年から、日本公認会計士協会(JICPA)会計制度担当常務理事を経て、企業会計基準委員会(ASBJ)副委員長、委員長となり、2014年の委員長退任までの20余年は、日本の会計基準の歴史上、最も大きな動きがあった時代だったと思う。あの時代ほど会計基準に人々の関心が集まったことはなかっただろう。あの頃、いろいろな立場で会計基準の開発に関われたことは、私の人生の忘れられない日々でもある。

長く会計実務に携わってきた方であれば、当時の出来事に大いに興味があるだろうと思う。制度変更に振り回された印象が強いかもしれない。当時を知らない若手であっても、財務会計を理解する方であれば、きっと興味を持ってもらえる時代だとも思う。あるいは、基準の中身より、会計基準作りという民間に委ねられた特異な仕組みに関心が向くかもしれない。

「限られた分野の事象であっても、歴史は常に興味深く、価値があるはずだ」と思う。その一端をお伝えしたく、筆を執った次第である。会計基準の詳細に踏み込むと読みづらくなる一方で、「会計基準」そのものが主役という面もある。焦点の...