オムニバス提案によるCSRD簡素化 気になる日系企業への影響と対応策

PwCドイツ  藤村 伊津
  戸原 英則

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1.はじめに

2025年2月26日に欧州委員会(EC: European Commission)が「オムニバス提案(Omnibus Proposal)」の第一弾を発表した。

オムニバス提案とは、政策目標等を後退させることなく、企業の管理・報告負担を軽減することを目的とした提案である。この提案は、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)、EU taxonomy等のサステナビリティ開示制度を簡素化するものであり、現在、これらの開示制度対応の準備を進めている全ての企業に大きな影響を与える。まずはオムニバス提案が公表されるまでの経緯を整理する。

2024年9月、EUの競争力に関する「ドラギ・レポート(Draghi report)」が発表された。これは、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長の要請によって前欧州中央銀行総裁・前イタリア首相のマリオ・ドラギ氏が作成したレポートである。マリオ・ドラギ氏は、ユーロ危機やパンデミックにおいて経済復興を主導した実績があり、金融政策や経済政策の領域で非常に影響力のある政治家・経済学者である。今回公表され...