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グローバル税務ガバナンスの向上を目指して 最終回 税務リスク管理など税務ガバナンスの現状と課題

尾道市立大学 経済情報学部 教授 前田 謙二

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はじめに

税務ガバナンスの重要性に注目が集まっていますが,税務は各社の業態・文化・組織・人材などにより個別性が強く,なかなか標準化されていない領域です。たとえば,税務ガバナンスの中心事項である税務リスク管理においても,課税事件などの他社事例でも直接自社の取引形態と必ずしも一致せず,事実認定が異なれば課税関係も異なるもので,他社との情報交換なども難しく,今まであまり標準化は行なわれていなかったともいえます。しかし,近年では企業の社会的責任(CRS)などの要請から税務方針の開示や移転価格税制における企業グループ全体の税務上のプライシングポリシーの作成,海外関連会社等の機能分析などに基づく移転価格税制上の各種報告(マスターファイル,国別報告事項,ローカルファイル)など,日本の多国籍企業でも,共通性のある対応が取られてきています。また,税務リスクへの対応も税務調査の指摘を受けてから受動的に行なうものから,税務調査を受ける前から自発的に税務リスクを管理する方向に向かっています。

このように日本の多国籍企業における税務リスク管理もある程度共通性がある対応になりつつあります。また,日本を代表する多国籍企...