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[全文公開] 寄稿 国際税務40 周年を祝して

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税理士 大原大学院大学客員教授 川田 剛

月日のたつのは早いもので「国際税務」も創刊以来40周年を迎えることとなった。

たまたま筆者(川田)は,本誌創刊時から一読者として,また,時には出稿者として「国際税務」にかかわってきた。

創刊に当たっては,当時の税務研究会の藤原嘉雄社長と,武田昌輔成蹊大学名誉教授(当時),小松芳明亜細亜大学名誉教授(当時)の2先生が多大の貢献をされた。

たまたま,筆者(川田)は,両先生と面識があり,ご指導をいただいていたことなどもあったことから,お声をかけていただき,本誌のお手伝いをすることとなった。

スタート当時は,国際化も今ほど進展しておらず,読者数も限定されていた。そのため,今から振り返ってみると,経営的にはかなり苦しい時期があったのかもしれない。それでも,初代の編集長をしておられた西元さん始め,スタッフ一同の地道な努力と,読者の身近なトピックを取り上げるという編集方針が徐々に理解され,安定した成長軌道に乗るようになった。

さらに,昭和61年(1986年)の移転価格税制導入に伴い,海外進出をしている本邦企業を中心に,国際税務に対する関心が高まったこと等もあって,本誌の読者層が拡大した。

その結果,創刊30周年を迎えるころには,国際税務に従事する人達にとって必読の書とされるまでになった。

ちなみに,創刊30周年記念特集として予定されていた武田昌輔先生と筆者(川田)との対談は,武田先生がケガをされて急遽入院されたという事情により,結果的にそれぞれが特別寄稿するという形になったが,そこでも武田先生が述べておられたように,創刊当時は,まさに小さな舟で荒海に乗り出すような心境だったと思われる。

しかし,近年における国際課税分野は激変期を迎えつつある。

たとえば,2010年にはOECDモデル租税条約の改訂と移転価格ガイドラインの改正,及び,それらを踏まえた移転価格税制における文書化義務の法制化が,2011年には移転価格税制における独立企業間価格の算定方法の変更(基本三法優先→最適法)が,2012年には国外財産調書制度と過大支払利子税制が創設されるとともに,2014年には,国際課税原則について,総合主義から帰属主義にあらためられるとともに,OECD承認アプローチ(いわゆるAOA原則)が導入されている。

また,2015年10月のBEPSプロジェクト最終報告書の公表を受け,2015年及び2016年の改正で,出国時のみなし譲渡益課税制度の導入を始め,国外事業者が行う電子商取引に対する消費税課税,多国籍企業情報の報告等に係る制度の整備(マスターファイル,ローカルファイル,国別ファイル)が図られている。

さらに,CFC税制についても, BEPSプロジェクトで記された基本的考え方を踏まえつつ,2015年の改正では,トリガー税率の撤廃,エンティティアプローチからインカムアプローチへの移行といった大幅見直しがなされるとともに,2017年改正でも実質支配基準が追加されるなどの見直しがなされている。それ以外の分野でも,2016年改正で,PE認定の人為的回避に対応するための恒久的施設の見直しが,2017年には,移転価格税制における独立企業間価格算定方式へのDCF法の追加,過大支払利子税制の見直し(50%→20%)が,2020年には非居住者に係る金融口座情報の自動的交換(CRS)の見直し等が行われるなど,ほぼ毎年のように大幅な改正がなされている。

OECD等における最近の議論をみてみると,トランプ政権下で独自の動きをしていた米国が各国との協調路線に戻ってくるとともに,従来の方針の大転換となる法人税率の引上げに言及するなど,今後ともこのような動きはますます活発化し,それらを踏まえた国内法の改正もよりひんぱん,かつ,大幅になってくると思われる。

このような状況を勘案すれば,本誌の果たすべき役割は今後,さらに重要性を増してくると思われる。それに伴い,御誌に対する期待や要望も増大してくるであろう。

御誌のさらなる発展を祈念しつつ,御祝の言葉としたい。

(前明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科教授)