[全文公開] アングル 租税回避スキームに係る義務的開示制度
税理士 川田 剛
はじめに
この欄で,何回かにわたり,米国の義務的開示制度について紹介してきた。
そのうち,Vol.37 No.6で紹介した様式8886は(行きすぎた租税回避スキームとしてIRSが指定したいわゆる)要開示取引に参加した個人,信託,遺産信託,パートナーシップ,S法人その他の法人に対し,IRSに報告を求めるものであった(IRC第6111条)。
ちなみに,この義務に違反した場合,1件当たり500ドル又はそれらのスキームへの投資資金の1%のいずれか少ない金額のペナルティが課されることとなっている(IRC第6707条(a))
また,Vol.37 No.11で紹介した様式13976は,重要なアドバイザーに対し,ペナルティの対象になっていないものの要開示取引に係る顧客リストをIRSに報告するよう求めるものであった。
それ以外にも,例えば,免税団体等(Tax-Exempt Entity)を利用したいわゆる「迂回」投資を規制するため様式8886-T等が設けられている。
そこで,今回は,わが国にこの制度が導入された場合,専門家に適用される可能性の高い様式8918について紹介する。
様式8918 (制度の概要)
この様式は,「行きすぎたタックス・シェルターに係る投資スキーム」を開発したり,販売する「重要なアドバイザー(Material Advisor)」に対し,IRSへの報告を求めるものである。
(注)この様式は,従前の様式8264をよりわかり易くしたものである。
なお,この様式により「重要なアドバイザー」がIRSに関示をしていた場合でも,投資家のIRSへの様式8886による開示義務は免除されない旨が明示されている。
(要報告者)
この様式によりIRSへの報告(開示)が義務付けられている「重要なアドバイザー」とは,次のいずれかに該当する者である(紙数の都合上主な点のみ紹介)。
(顧客リストの保存)
「重要なアドバイザー」は,販売の日から少なくとも7年間,自己がアドバイス等をした者に係るリストを各スキームごとに保存しておかなければならない。
(ペナルティ)
この様式によるIRSへの開示義務を怠った場合,要開示取引1件当たり5万ドルのペナルティが課される
ただし,典型的な租税回避スキームとしてリストアップされたスキーム(36種)については,ペナルティの金額は,20万ドル又はアドバイスによる税負担軽減額の50%相当額のいずれか多い方の金額とされている。
また,それが国際的な租税回避スキームだった場合には,税負担軽減額の75%相当額とされている。
さらに,IRSから関示要請があったにも拘らず,20日以内に顧客リスト開示義務を履行しなかった場合には,1日当たり1万ドルのペナルティが課されることとなっている。