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COVID-19、ウクライナ情勢等に伴い日系企業が直面する移転価格の問題

PwC税理士法人 税理士 山岡 利至
 税理士・公認会計士 荒井 優美子

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1.はじめに

COVID-19に係る新たな変異株の拡散、更には、ロシアのウクライナ侵攻とそれに伴うロシアへの制裁が世界経済に及ぼす影響は深刻である。

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻の世界経済への影響について、IMF(国際通貨基金)は、「エネルギーのほか、麦やその他の穀物を含む一次産品の価格が急騰し、サプライチェーンの混乱や新型コロナウイルスのパンデミックからの回復による物価上昇圧力が、さらに増して」おり 、「世界経済全体が成長減速とインフレ加速の影響を受けることになる。」 との見解を公表した。また、OECD(経済開発協力機構)が2022年3月17日に公表した中間経済見通しでは、ウクライナ侵攻は、世界のGDP成長率を侵攻前の予測よりも1%ポイント以上低下させ、世界の消費者価格を2.5%ポイント以上押し上げる可能性がある との見解を明らかにした。

ウクライナ侵攻で世界経済は多大な影響を受けるに留まらず、地政学的秩序が根本から変化する可能性があり、地政学的緊張の高まりは、とりわけ貿易や技術に関して、経済が断片化するリスクを一層高める 、とも考えられている。このような地政学リスクに直面する企業の当面の課題は、既にCOVID-19で対応が検討されていたサプライチェーンの見直しの他、資源調達先の多様化や、何よりも資源高、輸送費の上昇や輸送網の混乱、半導体需給逼迫による部品調達に関する懸念などから生じる、営業利益への影響への対応であろう。これは国内外に事業拠点を有する企業については、移転価格の問題として捉えられる。本稿では、COVID-19、ウクライナ情勢等に伴う移転価格の問題を、移転価格調整金等の実務上の留意点を中心に解説を行う。

2.COVID-19、ウクライナ情勢等により想定される移転価格の問題

移転価格税制への対応として、多くの企業は国外関連者をTNMM(取引単位営業利益...