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BEPS2.0の実施により日本企業が直面する新たな世界

EY税理士法人 パートナー 関谷 浩一
 ディレクター 大堀 秀樹

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はじめに

今回から数回に渡って、「BEPS2.0の実施により日本企業が直面する新たな世界」と題して、EY税理士法人の執筆担当者がBEPSプロジェクトの背景や今後の展望について解説いたします。本稿ではBEPS2.0の制度内容の解説ではなく、100年に一度と言われるこの国際税務の世界における大きな変化が、日本企業の税務実務にどのような影響を与えるのか、このような大きな変化にどのように対応すべきかについて、国際税務の民間実務家の視点から解りやすくお伝えします。

1.BEPSとはなにか

BEPSとは、Base Erosion and Profit Shiftingの略で、税源浸食と利益移転と訳されます。複数国で事業活動を行う多国籍企業は、企業グループ全体での税負担を軽減して企業価値を高めることを目的として、国際税務プランニングを積極的に実行してきました。一般的な例としては、国際的な二重課税を回避するために租税条約を利用したり、市場国での活動範囲を限定して恒久的施設が生じないようにしたりすることが良く知られています。グループ法人間の取引を利用したり、各国における税制の違いを利用したり、各国における事業活動の内容を調整したりすることで、積極的に法人税負担の高い国で課税所得を圧縮し(税源浸食)、法人税負担の低い国へ利益を移転させることは、企業活動の国際化の進展に伴い、欧米企業では1990年ごろには既に活発に行われていました。デジタル技術の急速な発展によりコンピューターサーバーを使った電子商取引が活発となり国際課税原則の修正が必要となることは早くから予想されており、20年ほど前から数度にわたるOECDモデル条約やコメンタリーの修正により既存の国際課税の枠組みの中で必要な対応が行われてきました。

このようにBEPSは旧来から存在していましたが、近年になって大きな課題と認識されることになった背景として...