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移転価格税制-残余利益分割法に関する新判断- 東京高裁令和4年3月10日判決(上)

長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士 南 繁樹

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第1 本稿の目的

1 残余利益分割法に基づく課税処分の取消し

納税者が、移転価格税制に基づいて行われた課税処分(以下「本件課税処分」という。)の取消しを求めた税務訴訟(以下「本件訴訟」という。)において、東京地方裁判所(清水知恵子裁判長)は納税者の主張を基本的に認め、本件課税処分の概ね全額を取り消した(令和2年11月26日判決 。以下「第一審判決」という。)。これに対して課税庁が控訴、納税者が附帯控訴していたが、東京高等裁判所(髙橋譲裁判長)は第一審判決を是認し、控訴及び附帯控訴をいずれも棄却した(令和4年3月10日判決 。以下「本判決」という。)。本判決に対しては、課税庁と納税者の双方が上告等を行わなかったため、本件課税処分の概ね全額を取り消した第一審判決が確定した。

筆者は、本件訴訟における納税者の代理人を務めたが、本判決は、残余利益分割法及び移転価格税制一般に関して重要な示唆を有すると考えられるので、本誌に寄稿の機会をいただいた。ただし、本稿は公刊された判決文に基づき、判決の客観的な分析を意図するものであり、未公開情報を含むものではない。また、意見にわたる部分はすべて筆者個人のものであ...