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金融取引に係る改正移転価格事務運営要領の基本的な考え方と実務対応

外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士・カリフォルニア州弁護士 大沢 拓

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国税庁は本年3月14日に、移転価格事務運営要領(以下「事務運営指針」)及び「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「参考事例集」。事務運営指針と併せて、以下「事務運営指針等」)の改正案を発表した。同改正案は、金融取引及び費用分担契約に係る取扱い等を変更するものであり、パブリックコメントの募集を経て国税庁は6月10日、原案通り事務運営指針等を改正(以下「本改正」)する旨を発表した。本改正は、本年7月1日以後開始する事業年度分の法人税に適用される。

本稿は、本改正のうち金融取引に係る改正について解説するものである。また、金融取引の中でも実務上の重要性が高い「金銭貸付け」の移転価格分析に重点を置いて解説する

1.本改正の趣旨

本改正は、OECD移転価格ガイドライン(以下「OECDガイドライン」)の費用分担契約及び金融取引に関する記述の改訂を事務運営指針等に反映するものである。すなわち国税庁は、本改正案の発表に当たり、BEPSプロジェクトの一環として金融取引に係るOECDガイドラインの記述の改訂が行われた旨、及び本改正が上記改訂を事務運営指針等に反映するものである旨を改正案の概要において説明した。

〈改正案における「案件の概要」より一部抜粋〉

「BEPSプロジェクトの一連の作業の成果を踏まえた見直しも順次行ってきたところ、この見直しの一環として、OECD移転価格ガイドライン第8章(費用分担契約)の改訂及び第10章(金融取引に係る移転価格の側面)の追加を踏まえて、下記Ⅱのとおり、費用分担契約及び金融取引に関する移転価格税制上の取扱いを明確化する等、指針の一部改正を検討しています。」

「OECD移転価格ガイドラインにおいて、金融取引に係る独立企業間価格の算定方法及びそれに係る留意事項が示されたことを踏まえ、指針においても金融取引に係る独立企業間価格を算定する際の留意事項(信用格付の活用及び債務保証に関する取扱い等)を明確にしました。【指針3-8】」

上記説明で特に「信用格付の活用」に言及しているように、本改正は、信用格付を活用して金融取引に係る比較対象取引を見出し得ることを明らかにしている。以下で詳論する通り、本改正は、金融取引に係る移転価格分析上、信用格付を積極的に活用する課税庁の方針を示すものであり、かかる方針変更は、納税法人側の対応にも必然的に変更を強いるものと思われる。

2.本改正の要旨

本改正は、金融取引に係る独立企業間価格(以下「ALP」)の検討上の留意事項として、以下の各号を挙げている(事務運営指針3-8)。事務運営指針3-8は金融取引全般に適用があるが、以下では別途断らない限り、実務上の重要性が高い金銭の貸付け又は借入れ(以下、単に「金銭貸付け」)を念頭に議論を行う

市場金利等の参照(3-8(1))信用格付等を用いて信用力の比較可能性を検討すること(...