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[全文公開] 書評 廣瀬 壮一 著『正しく身につく 個人の国際税務入門』(2024年2月6日刊行/中央経済社)

国際課税研究所 首席研究員 矢内 一好

( 83頁)

廣瀬税理士は、すでに『個人の外国税額控除 パーフェクトガイド』(中央経済社)を2019年に上梓し、2023年12月には第4版を出版している。今回の『個人の国際税務入門』は、上記の個人の外国税額控除の延長線にある企画と推察している。

外国税額控除あるいは国際税務関連の書籍は多く出版されているが、「個人」と限定している著書は、本書の著者および編集者の開拓した独自の領域である。実際に、個人の外国税額控除が短期間に版を重ねたということは、この分野に読者の需要があるにもかかわらず、その需要に応える著書がなかったともいえるのである。

本書の第一印象は、個人の国際税務に関する目配りが行き届いているということである。例えば、本書の第6章に「国外転出時課税」、第7章に「個人のタックスヘイブン対策税制」、第8章に「住民税」、第9章に「調書の提出義務」、第10章に「非居住者の金融口座等情報源(国税当局が入手する情報)」、という項目がある。

国際税務の領域における理解不足から、タックスヘイブン対策税制は、法人を対象にしたもので、個人は課税対象にならないと錯覚している向きがある。また、国際税務を扱った著書に、住民税の項目があるのも特徴である。住民税に関して、1月1日に日本に住所を有しないことで節税できることはよく知られているが、それ以上に多くの情報がここに書き込まれている。

印象の第二は、本書の著者が、国税局退職後約20年近く、個人の国際税務のコンサルティングに携わってきたという実績が書き込まれていることである。個人の国際税務の場合、最初に、居住形態と課税所得の範囲から入るのが常道で、本書もそのような構成になっているが、特に本書では、居住形態に関する説明の後に、税務署に否認されないための事前の準備と判例・裁決が記述されている。これは、著者の経験の蓄積がベースになったものである。

他の例としては、希にある事例であるが、租税条約に規定のある双方居住者の振分け規定の適用例である(本書163頁以降)。一般的には、租税条約の規定の説明と、実施特例法第6条の解説で終了するのであるが、仮に、実務で同様の事例に遭遇した場合、上記のような通りいっぺんの解説では実務家は納得しない。本書に書かれているアドバイスは、そうした場合でも参考になるものと思われる。初めて国際税務を経験する者はもちろん、これまでに経験のある者にとっても有益な情報源となるものと思い、推薦する次第である。

(国際課税研究所首席研究員 矢内 一好)